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帰宅

 ダンジョン攻略が終わり、俺達は家へと到着した。俺はリビングで、アリスの淹れた茶で一服する。


 なお、ペローナは寄る所があると、俺達と一緒には帰っていない。アレはアレで疲れ知らずな奴である。まあ、腹が減って買い食いでもしているのだろう。


 俺は向かいのソファーに座るアリスへと視線を向ける。眼鏡越しに見る彼女は、やはりというか魔力が増えたままだった。


「……アリス、体調に変化は無いか?」


「え? いえ、大丈夫です! 絶好調です!」


 アリスは疲れを心配されたと思ったらしい。両手をグッと握りしめ、笑顔で元気さをアピールしている。


 俺は念の為にと手を伸ばし、彼女の肩にそっと触れる。体の状態をスキャンするが、やはり問題は何も見当たらなかった。


 俺は小さく息を吐く。後から何か問題が起きても困る。今の状態をアリスに話しておくべきだろう。


「……原因は不明だが、ダンジョン内でアリスの魔力量が明らかに増加した。今ではペローナに匹敵する程の魔力を保有している事になる」


「えっと……。それって、何か不味いのでしょうか……?」


 俺の言葉にアリスは不安げな表情を浮かべる。魔力の増加を喜ぶ前に、心配するのはアリスらしい。


 多くの魔法使いは血の滲む努力で魔力を増やすのだ。自らの魔力の多さが、自分の使える手札の多さに直結するからな。


 ただ、アリスは魔法使いの自覚が無い。それどころか、冒険者の自覚すら無いのかもしれない。


 そんな彼女からすれば、今まで無かった物が手元にあるのだ。今はまだその扱いに、戸惑っている段階なのだと思われる。


「魔力の増加は喜ぶべき事だ。魔力増加による弊害は、今の所はどの研究機関からも報告されていない」


「そうなんですね……」


 アリスはホッとした表情で笑みを浮かべる。しかし、俺は声を低くして話を続ける。


「ただし、これ程短期間で、これ程の増加は前代未聞だ。新たな弊害が見つかる可能性も、危惧すべきだろう」


「えっ……?」


 アリスはポカンと口を開く。これで自分の異常性が少しでも伝われば良いのだがな。


 何せ魔力の器は緩やかにしか広がらない。感覚的に言えば、一年かけて一割拡張する程度のものだ。


 しかし、アリスはたった数日で数倍に成長している。そんな事例はこれまでに聞いたことが無い。


 前例が無い以上、アリスに起こる変化を予想する事が出来ないのだ。


「そして、初の事例である以上、絶対に他言するな。特に王立魔法研究所に知られるが一番不味い。奴等はどんな手段を使おうと、アリスの身柄を確保しに動くはずだ」


「お、王立魔法研究所、ですか……」


 アリスの顔が真っ青になって行く。俺が強く念押しした事で、その危険性が十分に伝わったみたいだ。


 あそこの所長は本気で危険だからな。あの魔法狂いが相手では、俺ですら身の危険を感じる程だ。


 出来る事なら関わらずに済ますべきだ。世の中にはそう言う存在が、何人も居るのである……。


「……あの、グリム様。わたしはどうすべきでしょうか?」


「どうすべきとは? もっと具体的に話せ」


 アリスの言葉では、何を望んでいるのか不明だ。あやふやな問いでは、正確な答えは返せない。


 アリスはしばらく悩んだ末に、俺に改めてこう問い直して来た。


「今回のダンジョン攻略で、わたしは力不足を感じました。それをどう補えば良いのかと考えていました。けれど、わたしの魔力急増は知られたら不味いと知りました。わたしは自分の魔力を、どう使って行けば良いのでしょうか?」


 俺はアリスの問いに驚きを覚える。アリスがここまで理路整然と、質問を纏めると思っていなかったのだ。


 同じく獣人であるペローナでは、ここまで上手く話せない。人間のグレーテルであっても、ここまで要点を押さえて話せはしないだろう。


 アリスは見た目が十歳程だが、実年齢は十三歳だったはず。それでもまだ、成人前の子供なのだ。彼女は思った以上に、頭脳方面のポテンシャルも高いのかもしれない。


「……そうだな。魔力の扱いを覚えるのは急務だ。他者を寄せ付けない実力があれば、どんな相手だろうと迂闊に手を出せなくなるからな」


 俺の言葉にアリスは頷く。そして、俺の話が終わっていないと感じ、静かに続きを待っていた。


「ただし、誰の目があるかわからん。街の中での訓練は控えるとしよう。魔力の訓練は今後、ダンジョン内で行う。勿論、俺かペローナが居る状況でだ」


 ダンジョン内であれば、人の目はグッと少なくなる。そして、その少数を避ける事は、俺達にとって容易なのだ。


 俺もアリスもペローナも、探索能力が他の冒険者より秀でている。その探知を掻い潜って近寄れる者は、居ないと断じて問題ないだろう。


「わかりました! それでは、今後はダンジョン内で訓練に励みます!」


「ああ、しばらく俺は研究室に籠る。訓練はペローナに頼むと良いだろう」


 今のペローナならアリスを任せて問題ない。アリスも同じ考えらしく、笑みを浮かべて頷いた。


 そして、丁度話した終わった所で、騒がしい声が家中に響く。


「アリスちゃん、お姉ちゃんですよ~! 今晩はご馳走を用意するからね~!」


 ドタバタとやって来たのはグレーテルだった。ソファーに座るアリスを見つけると、急いで駆け寄り抱きしめる。


 アリスが目を白黒していると、ペローナも遅れてやって来た。どうやらペローナの用事とは、グレーテルへ戻った報告に向かう事だったらしい。


「うむ、楽しみだな。グレーテルの用意するご馳走は」


 いつものクールな振舞だが、彼女の尻尾は大きく揺れていた。俺に対して『姿隠し』の魔法は効かない。俺の方が魔力が高いので、俺の目は欺けないのだ。


 ただ、俺はペローナにそれを指摘したりはしない。それを指摘すればグレーテルが更に騒ぐ。騒々しくなる事を、俺は既に学習済みだからな。

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