地下四階
パーティー登録から翌日。俺とアリスとペローナの三人は、朝からダンジョン攻略に乗り出した。
今回の目的は深層である地下七階。五日は掛かると見て、野営用の装備等も整えておいた。
そして、最小限の荷物をバッグに詰め、その荷物は俺が背負う。俺は戦闘時に最後尾に控えるのに対し、前衛のアリスと中衛のペローナは移動する機会も多い。
それに俺は『浮遊』の魔法で荷を軽く出来る。これは重力を操る土魔法の為、アリスやペローナでは使え無いと言う理由もある。
「――さて、無事に地下四階へ到着したな」
「あの、グリム様? 道中に魔物がまったく出なかったのですが……」
アリスが戸惑った様子で俺を見上げている。俺はふっと笑ってアリスに答えた。
「魔力を開放し、周囲を『威圧』していた。魔物も勝てない相手には挑んで来ない」
「ああ、それでですか! 何だか首の辺りが、ピリピリするなって感じてました!」
どうやらアリスは、俺の魔力自体は感じていたらしい。それが野生の本能なのか、危険と感じて首の辺りがピリピリとするのだろう。
ペローナも俺の魔力は感じていたが、特にそれで何かを言う事は無かった。かつてパーティーで行動する際も、深層まではこうやって魔物除けを良く行っていたからな。
俺は眼前に広がる湿原を目にする。そして、アリスに向かって説明を行う。
「このエリアは沼地で足場が悪い。『浮遊』を二人にも掛けるので、中間の休息エリアまで一息に駆け抜ける予定だ」
「道中の露払いは私に任せて貰おう。稀に好戦的な魔物も居るからな。私が先行して、そういった魔物は無力化する」
ペローナからもアリスへと補足する。移動において常に先陣を切るのはペローナの役目。俺よりも索敵が正確で、素早く敵を無力化出来るからな。
それに何より、俺は想定外の状況に備えておく必要がある。常に幅広く状況を確認し、いざという時の為に魔力も温存しておくためだ。
それらの説明に納得したアリスは大きく頷く。そして、気合を込めて身を乗り出した。
「それで、わたしはどうすれば良いでしょうか!」
「……中層での出番は無いな。大人しく付いて来い」
俺の言葉にショックを受けた様子のアリス。肩を落としてションボリとする。
とはいえ、中層は通過点にしか過ぎない。今のアリスなら、わざわざ戦闘訓練も必要無いだろうしな。
さっさと抜ける為にも、慣れた俺とペローナで対応する。今のアリスのすべき事は……。
「俺とペローナの行動を見て学べ。トップの冒険者が、どういうものかをな」
「――はいっ! わかりました、グリム様!」
俺の言葉でアリスが顔を上げる。パッと明るい笑みで、再び気合を入れ直す事が出来た様だ。
ペローナそんなやり取りを静かに見つめていた。そして、ぽそりと俺に囁いた。
「グリムも随分と丸くなったな……」
「丸くなった? どういう意味だ?」
「以前のグリムならフォロー等しなかった。学ばぬ者には、後になって皮肉を言っていた」
ペローナの言葉に俺は過去を思い出す。思い当たる節はいくつもあるな。
ペローナやハインリヒにも、事前にフォローなんてしなかった。失敗した所で初めて、愚かな行為だったと指摘していた。
ただ、今にして思えば、どうして先にフォローをしなかったのだろう? そして、今の俺はどうしてフォローを自然に行っている?
明らかに事前に知らせる方が効率が良い。過去の自分の行動と、今の自分の変化に俺は首を傾げる。
ただ、考えても答えは出そうになかった。俺は小さく息を吐いて、二人に対して声をかけた。
「まあ、そんな事はどうでも良いな。それよりも先を急ぐぞ」
「はい、わかりました!」
「ああ、魔法を頼むぞ?」
俺は三人分の『浮遊』を同時に掛ける。それによって、俺達の体重は半分程に軽減された。
この状態なら速度も出せるし、疲労も大きく抑えられる。歩けば数日掛かる距離も、半日あれば踏破可能となる。
「では出る! 私の後に続け!」
ペローナが軽く跳躍して、数メートル先の岩場に着地する。更に跳躍すると、次なる足場へと着地した。
俺が視線で促すと、アリスもそれに続く。ペローナの使った足場を目指し、効率良く移動する事が出来ていた。
俺はその様子に満足して、アリスの後に続く。この位置ならば、何かあってもすぐにフォローが可能。そして、アリスの行動を随時チェック出来る。
数日に渡るダンジョン内での攻略となるのだ。アリスにとっては、何もかもが初めてであろう。心理的なストレスも大きいはずだ。
それに何より、アリスは得体の知れない成長を見せる事がある。その原因の一端を、今回の道中で見られるかもしれない。
俺はそっと自らの口元を隠す。そして、アリスの小さな背中を注視し続けるのであった。




