パーティー登録
アリスの魔法を一通り確認した。使える魔法は『加速』と『風の防壁』の二つのみだった。
どちらも基礎的な初級魔法なのだが、問題なのはその練度だ。何故かこの二つだけは、俺と同程度の練度で使う事が出来たのだ。
初級魔法とは言え、呼吸するが如く扱えるのは大きい。今のアリスの戦闘スタイルなら、これだけでダンジョン中層を突破出来る戦力と成り得る。
アリスの実力が深層に通じるかは微妙なライン。けれど、深層七階であれば、俺とペローナの二人でも対応は可能である。
その為、俺は深層七階へ向かう事を決めた。アリスに深層を見せるのと、大魔石を多少なりとも回収しておく為である。
「――って、グリムよ。深層に向かうのはもっと先って言って無かったか?」
「アリスが思った以上に優秀だったからだ。お前としても望む展開だろう?」
俺は冒険者ギルドの応接室で、ギルドマスターのアルベルトと向かい合う。呆れた表情の彼に、俺は鼻を鳴らして言い返した。
なお、俺達はソファーに座り、俺の左右にはアリスとペローナも座っている。俺達を一瞥したアルベルトは、大きくため息を吐いて俺に問い掛ける。
「もう深層に行けるのかよ……。なら、嬢ちゃんはB級にしとくべきか?」
「ああ、そうだな。この街のB級では、誰もアリスには勝てんだろうな」
俺の言葉にアルベルトは目を剥く。しかし、隣のペローナが平然としているので、それを見て彼も納得したらしい。
俺はブラフを使う事もあるが、ペローナはそういう駆け引きが出来ない奴だ。その彼女が何の反応も示さないのは、そういう事だと理解したのだろう。
「この街でA級はお前とペローナだけ。つまり、実質的にお前らがこの街のトップスリーって訳だな?」
「その認識で間違いはない。馬鹿共には良く言い聞かせておけ。多くの怪我人を出したくなければな」
アリスの実力を疑う者は出るだろう。急速な昇級を妬む者だって現れる。そういう馬鹿共は、得てして愚かな行動を取るものだ。
今のアリスにはそんな愚か者を退けるだけの力がある。そして、策を弄して搦手で来ようとも、俺やペローナがアリスを守る。
俺もペローナもそんな愚者に手加減などしない。例え相手が貴族や王族だろうと、手を出したなら相応の報いを与えるつもりだ。
ただ、俺達も一々相手をしたい訳では無い。アルベルトが上手く喧伝してくれれば、それだけ俺達の手を煩わさずに済むと言う話である。
「わかった、そっちは根回ししとく。で、パーティー登録するのか?」
「ああ、そうだな。早ければ明日にでもダンジョンに潜りたいからな」
パーティー登録にはいくつかの手続きが必要となる。しかし、その辺りの面倒事は、アルベルトが上手く処理してくれるだろう。
何せこいつも俺達に、深層攻略を任せたいのだ。魔物の間引きも必要だし、何より現状だと大魔石が枯渇しかねない。
ダンジョンの出土品がこの街の経済を動かしているのだ。ギルドだけでなく、領主だって俺達の動向を気にしているだろうからな。
そして、中層以降を攻略するならパーティー登録は必須と言える。その理由については、後でアリスに説明しておかねばな。
「んで、パーティー名は決めているのか?」
「ああ、『グリモワール』で登録してくれ」
グリモワールとは魔法全般の書物。つまり、魔法使いが魔法を学ぶ基本となる物である。
魔法使いは数が少なく、俺の様に効率的に教えられる者は限られる。故に多くの魔法使いは、グリモワールによって魔法を学ぶのだ。
俺もアリスもペローナも、全てが魔法使いである。ただ、二人は俺が教えたので、グリモワールで学んだ訳では無い。
しかし、俺達こそが生きたグリモワール。魔法使いとはかく在るべきと言う、生きた手本となる存在なのだ。
ただ、アルベルトはそんな理由には興味が無いらしい。了解と手を振ると、それで話を終わらせてしまった。
「それじゃあ、今日中に処理を終わらせておくよ。スクロールが必要なら、また明日に来てくれ」
「ああ、わかった。こちらも今日は準備がある。何もなければ明日にでも、また顔を出すつもりだ」
俺の言葉にアルベルトが頷く。それで話は終わりで問題無いらしい。俺は席を立って扉へと向かう。
アルベルトは決して賢くは無い。けれど、こういう無駄なやり取りの無い所は好感が持てる。ある意味で、冒険者らしいギルドマスターと言えるだろう。
俺は目的を達成したので部屋を出る。そのすぐ後ろを、アリスとペローナが続く。
こうして、俺達のパーティー登録は完了した。今日から俺達は『グリモワール』として活動を開始する事となったのだった。




