表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/127

初級魔法使い

 今日はアリスの魔法について確認を行う。場所は家の庭で問題は無いだろう。戦闘訓練を行う訳では無いからな。


 確認するのはアリスが本当に魔法を使えるのか。そして、どの程度魔法を理解しているのかの確認だけである。


 俺はアリス、ペローナと共に庭に出る。なお、ペローナは早朝から少ない荷物を持参し、手早く引っ越しを済ませていた。


「さて、それでは始めるとしよう。まずは『加速』の魔法を使ってくれ」


「はい、わかりました! ――『加速』!」


 俺は眼鏡を通してアリスを見る。確かにアリスの体には、緑の魔力で覆われた。『加速』の魔法が発動しているな。


「では、次は『風の障壁』を使ってみてくれ」


「はい、わかりました! ――『風の障壁』!」


 アリスの宣言と共に、彼女の周囲に風が渦巻く。そして、風は球体を形成し、彼女を守る障壁となった。


 しかし、俺はそれを見て眉を顰める。想定したよりも威力が低い。この程度の障壁では、ペローナの魔弾を防げるとは思えなかったのだ。


 俺はペローナに視線を向ける。すると、彼女は訝しそうに低く唸り出した。


「……以前見た際は、こんな威力では無かった。アリスは手を抜いているのか?」


「そ、そんな事ありません! わたしはこれ以外のやり方がわからないんです!」


 やり方がわからない? 威力を高めるブーストの方法が、わからないと言うのか?


 つまり、今のアリスは魔法の基礎を身に付けただけ。魔法の理論を習熟している訳では無い。


 そんなレベルではペローナに敵うと思えない。何やら状況がちぐはぐな感じがするな……。


「アリスはどうやって魔法を覚えた? どうやって魔法を発動している?」


「覚えたのは、グリム様の魔法を見てです。発動は何となくでしょうか……」


 何となくだと? それは感覚的に使えたとでも言う気だろうか?


 人間だろうが獣人だろうが、魔法を呼吸する様に使えはしない。それは数えきれない程の反復の末に、そういう感覚が身に付いた時だけだ。


 俺であっても使い慣れた魔法以外は、そこまで簡単に使えはしない。それを意識せずに使えるとしたら、アリスは俺を超える魔法の才覚を持つ事になる。


「……では、これはどうだ? 初見の魔法だが使えるか?」


 俺は空に向かって『風の刃(エア・カッター)』を放つ。風属性の魔法なので、これならアリスも使えるはずだ。


 しかし、アリスは難しい顔で俺を見つめる。そして、肩を落として俺に告げる。


「わかりません……。どうやって、使えば良いのか……」


「何だと? 使い方がわからない?」


 アリスは先ほど、『加速』と『風の障壁』を見て覚えたと言った。しかし、今は見てもわからないと言う。


 俺は試しに『竜巻トルネード』や『静音』の魔法も見せた。けれど、アリスはやはり使い方がわからないと言った。


「――どういう事だ? 確かに魔法は使えている。しかし、聞いていた話とかなり違うな……」


「ああ、そうだな。何というか、以前とは別人みたいだ。今のアリスからは圧力を感じない」


 ペローナの言葉に俺は頭を抱える。彼女の言う圧力とは、魔力による『威圧』の事だろう。


 それはつまり、以前のアリスはもっと魔力が多かった。ペローナを大きく超える魔力量を有していた事を意味する。


 『威圧』が意味を成すのは、自分よりも魔力量が少ない相手にだけだ。少なくとも今のアリスは、ペローナを超える魔力を持ってはいなかった。


「ああ、そういえば以前『加速』の三重掛けを行ったそうだな。そちらは使えそうか?」


「わかりません。使った気もしますが、どうやって使ったのか覚えていないんです……」


 やはりと言うべきか、三重掛けは出来ないらしい。アレはかなり特殊な技術だからな。使えるのは俺を除けば世界に数人程度しかいない。


 同じ魔法を普通に使えば、前の効果を上書きしてしまう。そうならない為には、魔力の波長をずらすと言う、高等テクニックが要求されるのだ。


 それが出来る程の魔法使いは世界屈指。この世界で五本の指に入る程の魔法使いになるのだが……。


「……ふぅ、わからん事だらけだな。だが、魔法を使う感覚は身に付いている。今は訓練の短縮になったと喜んでおくとしよう」


「そ、そうなんですね? 喜んで良いなら、喜んでおく事にします!」


 アリスもどう受け止めて良いかわからないのだろう。俺の言葉に同調し、一先ずは喜ぶべき事として受け止めたらしい。


 それを見ていたペローナも、アリスの言葉に嬉しそうに笑う。彼女がこんな優しく笑うのは初めて見た。珍しい物を見たなと、俺は内心で驚きを隠す。


「さて、それでは魔法の訓練を続けよう。――そういえば、副作用は大丈夫か?」


「あ、はい! お腹がポカポカしますが、トイレに行きたい感じはしないです!」


 どうやら、アリスのデメリットは克服されたらしい。何が原因でそうなったのか、まったく不明なのが気持ち悪いが……。


 まあ、良いかと俺は気持ちを切り替える。アリスの訓練を続けていれば、いずれ何らかのヒントは得られるはず。


 俺は鎌首をもたげる好奇心を、強い自制心で押さえつけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ