表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/128

奇妙な雑貨屋(ペローナ視点)

 グリムの家で夕食をたらふく食べ、私はグレーテルを家へと届ける事となった。比較的治安の良いエリアではあるが、若い女が夜道を一人で歩くものでは無いからな。


 無論、その若い女に私は含まれない。私はアンデルセンの街でNo.2の実力者。そして、闇魔法を使う獣人の私にとって、闇夜は最も得意とするフィールド。暗殺者が相手であっても、私が後れを取る事はまず無いだろう。


 私は夜目が効き、耳と鼻でも周囲を探る事が出来る。今は私とグレーテルに意識を向ける存在は居ない。それを確認しながら、私はヘンゼルの雑貨屋まで辿り着いた。


「兄さん、ただいま~! 今日はお客さんが居るよ~!」


「おかえりっす。お客さんって、そちらの方はもしや……」


 店のカウンターから出て来て、こちらに視線を向ける茶髪の男。どことなく雰囲気がグレーテルに似ている。彼が兄のヘンゼルで間違いないだろう。


 彼は私に元まで来ると、ニコリと微笑み挨拶して来た。


「初めまして、ヘンゼルっす。もしかして、ペローナさんじゃないっすか?」


「ああ、そうだ。今日は手料理の礼として、グレーテルを送り届けに来た」


 私の黒い髪に赤いフードと言う姿は有名だからな。すぐにヘンゼルも私の正体に気付いたみたいだ。


 ただ、彼は何かに気付いて私を見つめる。そして、不思議そうに問い掛けて来た。


「どうかしたっすか? お店の商品に気になる物でも?」


 こいつはどうも見た目通りの奴では無いな。人畜無害な顔をして、相手の事を良く観察している。


 私はこの店に入ってから、何か違和感を感じていたのだ。視線を店の品に巡らせ、匂いを確かめながら彼に問い掛ける。


「……店の商品は、半分がグリムの作品なのか?」


「ええ、その通りっす。流石はお目が高いっすね!」


 ニコニコと笑うヘンゼルを無視し、私は店の商品に視線を這わせる。パッと見ると只の雑貨屋。けれど、この店は何か変だ。


 日用品の多くが魔晶石を使い、とても高額な商品が並んでいる。かといって、残りの半分は日常使いの消耗品。どこの店にもある安くて良く使われる品。


 そして、何より匂いがしない。この店に住むヘンゼルとグレーテル。商品を作ったグリム。それ以外の匂いがまったく無いのだ。


 この店は誰に物を売っている? 冒険者か? 旅の商人なのか?


 どれもしっくり来なかったが、ふと私の直感がある答えを導き出した。


「……この店は、グリムの為に存在するのか?」


「あはは、そこに気付いてしまうっすか。流石はペローナさんっすね!」


 ヘンゼルは隠すでもなく明るく笑う。隣のグレーテルは驚きで目を見開いていた。


 私はようやく違和感の正体に気付く。この雑貨屋は商売をする気が無いのだ。少なくとも、ここに陳列された商品は、雑貨屋を装う為に並べられているに過ぎない。


 では、何のためにそんな事をしている? いや、それ以前にそんな商売が何故許されている?


 考えられる可能性は、それほど多くは無い。私はヘンゼルを睨みながら、低い声で問い掛けた。


「……お前は領主の手先なのか? そして、グリムを監視しているのか?」


 私の問い掛けに、ヘンゼルはギョッと目を見開く。そして、慌てて手を振り出した。


「いやいや、それは誤解っすよ! 私は単なる橋渡し役っす! それで心情的にはグリムさんの味方っすから!」


「そ、そうだよ! 私達はグリムさんへの恩返しをしたいだけなの! 敵じゃないから、そんな警戒しないで!」


 グレーテルも慌てて弁明を行う。どうも私が警戒するみたいに、領主へグリムを売っている訳ではなさそうだ。


 全てを鵜吞みにも出来ないが、グリムが心を許しているのだ。ならば、私がこれ以上の警戒をしても意味は無い。何か問題があるなら、グリムも側に置いたりしないだろうしな。


 ただ、もう一つ懸念事項がある。私は念の為に、そちらも確かめておく事にした。


「害意は無さそうだが、この店を監視する者がいる。それは敵では無いのか?」


「やっぱり居るんすね? そっちは領主様の手下っす。私に対する監視っすね」


 私の問い掛けに、ヘンゼルは苦笑いを浮かべる。どうも知らされてはいないが、居る事には薄々気付いているといった感じだな。


 まあ、それで何となくだが事情はわかった。監視が付けられる以上、ヘンゼルはグリムの敵では無いのだろう。


 むしろ、グリムには監視を付けられない。付ければすぐに気付かれるし、下手をすると敵対行動と取られかねない。


 それを避ける為に、ヘンゼルを監視しているのだ。彼の動向をチェックすれば、それは間接的にグリムの情報を得る事に繋がるから。


「……グリムの味方なら、私にとっても味方だ。無理の無い範囲なら手を貸そう」


「本当っすか? 凄く助かるっす! 何かあった際は、宜しくお願いするっす!」


「ありがとう、ペローナさん! 信じて貰えたことが、私は何よりも嬉しいわ♪」


 私の言葉に喜ぶ兄妹。今の所は二人を味方と思い、行動しようと私は決めた。


 私の人生はグリムの為にある。それがグリムの為になるなら、私は私の出来る事をするまでだ。


 そんな風に考えながら、私はヘンゼルの店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ