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かしましい(アリス視点)

 ペローナさんとの決闘に和解。そういった諸々があった翌日です。その日、わたしはグリム様に命じられ、家でのんびり過ごす事になりました。


 朝早くからリビングに居たペローナさん。朝食作りに駆け付けたグレーテルさん。そんな二人と共に、わたしはキッチンに立っています。


「いや~、昨日はビックリしたよ! アリスちゃんが倒れたって聞いてさ! しばらく、まともに歩け無いって聞いてたのに、普通に歩いてるのにも驚きだけど!」


「その節は、ご心配お掛けしました。わたしでしたら、この通りもう大丈夫ですので!」


 わたしとグレーテルさんは並んで野菜の皮むきをしています。そして、グレーテルさんはいつもの笑みを、わたしへと向けています。


「体は本当に大丈夫なんだよね? 無理してない? お姉ちゃんに嘘は駄目だよ?」


「ほ、本当に大丈夫です! むしろ、今までで一番体調が良いくらいなんですよ!」


 グレーテルさんに真っ直ぐ瞳を見つめられ、わたしはその瞳を真っ直ぐに見つめ返す。


 すると、心配を含んだ眼差しが、ふっと緩められた。わたしが嘘を言っていないと、グレーテルさんには伝わったらしい。


「うん、ならば良し! ペローナさんも良かったね!」


「――む? そうだな。アリスが無事で何よりだ……」


 背後に視線を向けるグレーテルさん。すると、すぐ後ろに居たペローナさんが、慌ててコクコクと頷いました。


 ペローナさんは何をするでもありません。けれど、朝からずっと、わたしの後ろに立ち続けているのです。


 わたしが何なのだろうと不思議に思っていると、グレーテルさんがニマニマと笑みを浮かべて説明してくれました。


「昨日は二人っきりで話し合ったんだ。そしたらさ、ペローナさんはアリスちゃんの事を、すっごく心配してたの! 自分を許してくれたアリスちゃんを、何があっても守って行くって語っていたのよ!」


「えっ? そうなんですか……?」


 わたしは背後のペローナさんに視線を向けます。すると、ペローナさんは視線を逸らし、気まずそうに口を開きました。


「と、当然の事だ……。私は受けた恩を必ず返す……。それだけだ……」


「もう、この照屋さんめ! グリムさんと一緒で素直じゃないなあ♪」


 ペローナさんはそんな風に考えていたんだ。グレーテルさんに聞かなければ、ずっとわからないままだったでしょう。


 というか、グレーテルさんが凄過ぎです。この無口なペローナさんから、それだけの情報を引き出せるだなんて……。


 わたしが呆然としていると、グレーテルさんはパッと笑顔を見せます。そして、おもむろにこんな事を言い出しました。


「あっ、良い事を思いついた! ペローナさんも私と同じで、アリスちゃんを守りたいお姉ちゃんでしょ! だから、アリスちゃんはこれから、ペローナお姉ちゃんって呼ぶのはどうかな?」


「ペローナ、お姉ちゃん……?」


 初めて出会った時と同様に、グレーテルさんの唐突な提案です。わたしはたじろぎながらも、言われた言葉を反復しました。


 すると、ペローナさんが凄まじい視線で睨んで来ました。余りの恐ろしさにヒュッと息を吐くと、わたしの両肩がペローナさんに掴まれてしまいます。


「な、何だと……。何なんだ、この可愛い生き物は!」


「ふふっ、それがアリスちゃんの妹力ってやつよ♪」


 グレーテルさんは時々、意味のわからない事を言います。けれど、何故だかペローナさんは、納得した様にうんうんと頷いていました。


 しかも、ペローナさんはずいっと身を寄せ、わたしに対して更なる要求を突き付けて来ました。


「もう一度! もう一度言ってくれ!」


「えっと……。ペローナお姉ちゃん?」


「ああ、良い! 凄く良い響きだ!」


 ペローナさんが凄く興奮しています。魔法で隠され見えませんが、尻尾が凄く振られている気配を感じます。


 何かが彼女の琴線に触れたみたいです。興奮を見せるペローナさんですが、奥からすっとそれを止める人物が姿を現しました。


「騒々しい。何を騒いでいる?」


「――グリムか。済まない、少し取り乱した」


 キッチンへやって来たのはグリム様です。怪訝そうにわたし達を見つめています。


 しかし、その声を聴いた途端、ペローナさんが豹変します。いつもの無表情で、静かな姿へと変わってしまったのです。


 グリム様は小さく息を吐くと、視線をグレーテルさんに向けてこう告げました。


「余りはしゃぐな、グレーテル。こいつらが毒される」


「えっ、酷くない! 私の事を毒みたいに言ってさ!」


 グリム様へと抗議するグレーテルさん。そんな彼女に舌打ちして、グリム様はキッチンから去って行きました。


 プリプリと怒るグレーテルさん。そんな姿に、わたしとペローナさんはくすっと笑います。


 わたしもペローナさんも、彼女から少なからず影響を受けています。けれどそれが、とても心地よいものだと感じていたからです。

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