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運命の出会い(アリス視点)

 わたしの名はアリス。兎人族の里に生まれ、10歳まで森で静かに暮らしていた。


 しかし、兎人族の里はシュルツ帝国という、人間の兵士によって滅ぼされた。殆どの兎人は奴隷として連れ去れらてしまった。


「こいつらはケモノだ! 一匹残らず狩り尽くせ!」


「馬や牛と同じだ! 人間に飼われる存在なのだ!」


「ひゃはは! 無様だねぇ! 獣人ってやつはよ!」


 わたしは母親に連れられ、人間達から逃げ続けた。身を隠して捕まらない様に、里を捨てて森から逃げ出したのだ。


 けれど、その逃げ出した先は、別の人間の国だった。フェアリーテイル王国と言う国で、わたし達は不法移民として捕まってしまった。


 不法移民は人間ならば、所属する国の領主に引き渡される。その領主こそが、その人間の持ち主として扱われるからだと聞いた。


 けれど、獣人族は人間じゃない。どの国にも、どの領地にも所属していない。つまり、わたし達の人権は誰にも保障されていないのだ……。




 わたしと母は奴隷となった。母も私も別々の貴族に買われてしまう。名前は忘れたけど、何とか男爵にわたしは買われた。


 そして、わたしは領主の息子に、玩具として与えらえた。奴隷であり、獣人であるわたしは、殺しても構わないペットとして扱われた。


「お前はケモノだろ! 家の中に入るんじゃない!」


「ほら、残飯だ! ケモノにはこれで十分だよな!」


「もう飽きたな。その耳切ったら良い声で鳴くか?」


 寒空の中で身を縮めて眠り、僅かな残飯で飢えを凌ぐ。そうやって生き延びても、飽きたと言われて簡単に捨てられた。


 最後には兎人の証である耳を切り落とされ、泣き叫ぶわたしを冷笑していた。最後に振るわれた暴力によって、右半身には麻痺も残った。


 それでもわたしは死ななかった。死にたく無かった。そんなわたしは、奴隷商へと再び売られ、このアンデルセンの街へとやって来た。




 アンデルセンの奴隷商は酷い環境だった。怪我や病気の訳アリ奴隷は、地下牢に繋がれて放置される。


 最低限の食事と水だけ与えられ、自力で回復したら商品として認められる。それだけの体力が無い者は、命を落とすか廃棄される運命だった。


 死にたく無かったわたしは、怪我が治ると信じて生き続けた。そんなわたしを、周囲の奴隷達は嘲笑った。


「その手足じゃもう無理だろ? 商品価値なんてないってのに……」


「獣人なんて買う奴がいるか? 何の役にも立たなさそうなのによ」


「馬鹿な奴だな。ケモノの頭じゃ、何もわからないんだろうな……」


 馬鹿にされ、冷笑され、私の心がジワジワと削られる。毎日少しずつ、生きる気力が失われて行く。


 私には価値が無い。だから、誰にも必要とされない。私はここで死ぬしかないんだ……。



 ――嫌だ! そんなのは嫌だ!



 わたしは馬鹿だから、どうして良いかわからない。助かる道なんて無いのかもしれない。


 それでも、わたしは生きたかった。こんな惨めな死に方だけは絶対に嫌だった。



 ――誰か私を必要として! ケモノなんかじゃない! 人として最後を迎えさせて!



 そう願うわたしだったが、他の奴隷から病気を貰ってしまった。食事も喉を通らなくなった。


 これで終わりだと諦めかけた。そんな時に、希望の光が現れた。



「こいつを貰おう。いくらになる?」



 絶望するわたしの眼前に、その人は立っていた。眼鏡をかけた銀髪の青年。彼が奴隷商と交渉していた。


 もしかしたら、わたしを買ってくれるのだろうか? こんなわたしを必要としてくれるのだろうか?


 そんな僅かな期待を胸に、わたしは彼を見つめ続ける。すると、彼はわたしに背を向けてしまった。



 ――ああ、やっぱり……。



 こんな私を必要とするはずが無い。そんな人がいる訳ないんだ。そう失望した所で、彼の声が頭上に降り注ぐ。


「少し待っていろ。すぐそこから出してやる」


「え……?」


 顔を上げると、彼は私を見つめていた。その顔には笑みまで浮かんでいる。


 今度は勘違いじゃない。ハッキリと私に向かって言ったのだ。ここから出してくれると。


「――っ……」


 私は漏れそうな声を必死で堪える。ここで泣き出して、やはり要らないと言われたくない。


 わたしは静かにその背を見つめ続ける。階段を上って行く彼が、私に掛けた言葉を信じて。



 ――どうか彼が、わたしを必要としてくれます様に……。



 わたしは心の中で必死に祈り、ただ彼との再会を待ち続ける。


 わたしに何が出来るかはわからない。それでも、わたしは生き続けたいのだ。


 そんなわたしの願いは、その後に叶えられる事となる。わたしの人生における、最後にして最大の幸運によって……。

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