表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/127

謝罪

 俺とペローナはアリスの起きる気配に気付く。アリスは二階のベッドの上だが、俺もペローナも彼女の気配に注意していた。それ故に即座に気付けた訳だ。


 俺がアリスの部屋に入ると、アリスが俺に笑みを向けた。ベッドに横たわり、痛みに耐える様に引き攣った笑みであったが。


 そして、俺に続いてペローナが部屋に入る。その姿にアリスの瞳は恐怖に染まる。しかし、俺が説明を行った事で、アリスは何とか落ち着きを取り戻した。


「それで、謝罪とはどういう意味でしょうか?」


 アリスは戸惑った様子で俺に問い掛ける。ただ、その視線はチラチラとペローナの頭に向けられる。彼女の獣耳が気になっているらしい。


「ここからは、ペローナ自身に説明して貰うとしよう。全て俺が話しては、アリスに気持ちが伝わらんだろうからな」


「わかった。私から話そう……」


 俺の後ろに一歩引いていたペローナは、緊張した面持ちで前に出る。そんな彼女の表情に、アリスもまた緊張し始める。


 ペローナは大きく深呼吸をして気持ちを整える。そして、胸元で手を握りながら、アリスに向かって頭を下げた。


「済まなかった子兎。……いや、アリスと言う名だったな? 全ては私の勘違いだった」


「勘違い、ですか……?」


 ペローナの言葉に、アリスは首を傾げる。その勘違いが何なのか、わからないからだ。


 ペローナは頭を上げて、アリスを真っ直ぐ見つめる。そして、泣きそうな顔で話し始めた。


「私は少し前まで、とある任務で街を離れていた。そして、街に戻ると『黄金宝珠』が解散し、私とグリムが仲間で無くなったと知らされた」


 とある任務とはハインリヒの両親を救出した件だ。その辺りはアリスにも軽く説明をしてある。アリスは小さく頷き先を促した。


「私はギルドマスターを問い詰めた。どうして、そんな事になったのかと。そして、ハインリヒが信頼を失った事が原因。それと同時に、グリムがアリスを仲間にしたからだと聞かされた」


「わたしを仲間にしたから……」


 俺はその説明に眉をしかめる。『黄金宝珠』の解散はハインリヒが原因。そこに異論はない。


 しかし、『黄金宝珠』が解散した結果、俺はアリスを手にする事になった。アリスと『黄金宝珠』解散には何ら因果関係が無いはずである。


 そこは愚かなアルベルトの失態だな。ペローナにそんな説明をすれば、不要な誤解を生むとわからないとはな……。


「私は冒険者ギルドを飛び出した。そして、グリムの元へと確認に向かった。だが、そこで私は信じられないものを見た」


「信じられないもの……?」


 ペローナは何かを堪える様に拳を握る。そして、肩を震わせ、目に涙を溜め始めた。


 そんなペローナの姿に、アリスは微かな動揺を見せる。ペローナは瞳から一筋の涙を流し、擦れる声でこう告げた。


「あのグリムが、アリスと並んで歩き……。――穏やかな笑みを浮かべていた!」


「「は……?」」


 俺とアリスの声がハモる。ペローナが何を言っているのか、一瞬理解が追いつかなかった。


 だが、呆然とする俺達を前に、ペローナは感情を爆発させた。


「私はグリムと三年を共にした! 仲間としてずっと側に居た! なのにあんな笑みを向けられた事は無い! あんな優しいグリムを私は知らない!」


「おい、待て……。お前は何を言っているんだ……?」


 そもそもこいつは、いつも寡黙で無表情。ただ俺の側に居るだけの奴だった。邪魔にならないから、俺も好きにさせていた。


 ペローナに優しくする必要が無い。――というか、アリスに対しても優しくしていない。俺にはこいつの考えが本当に理解出来ないのだが……。


「ズルい! 子兎だけズルい! ――そんな考えで頭がいっぱいになり、私は自分でも良くわからなくなった……。ただ、アリスの事が許せないと、そんな想いに支配されていた……」


 ペローナは涙を流し続け、それでも感情を抑えようと瞳を閉じた。


 そんな彼女をアリスは凝視する。そして、堅い声でペローナに問い掛けた。


「ペローナさんは、グリム様が好きなのですか?」


「グリムが好き? ……良くわからない。ただ、グリムの側だけが私の居場所だった」


 ペローナは自らの頭にそっと手を伸ばす。そこには黒い髪と、黒い獣耳が存在していた。


 彼女はそっと手で髪に触れ、泣き笑いの様な表情を浮かべた。


「グリムは獣人の私に、生き方を教えてくれた。変化の魔法で人に化ける事も、魔道具での戦い方も教えてくれた。私にとってグリムは、私が人らしく居られる唯一の場所なんだ」


 変化の魔法は闇魔法の一種。ただ、実際に変身する訳ではなく、幻術で周囲にそう見せるだけのものだがな。


 ただ、人の街で獣人が暮らすには、そうやって獣の特徴を隠す必要があった。俺は獣人の体を研究させて貰う対価として、彼女が生きる為の環境を整えてやっただけである。


「……ペローナさんを許せるか、まだ判断が出来ません。ペローナさんの過去を、わたしに教えてくれませんか?」


「私の過去だと? ……わかった。私の過去。そして、狼人族の事情を話してやろう」


 アリスは真剣な眼差しを真っ直ぐに向ける。そんな彼女に対して、ペローナは自身の過去を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ