限界突破(アリス視点)
グリム様の元パーティーメンバーである人物。黒髪の獣人ペローナさんは、銃口を私に向けたまま叫びました。
「この銃も! 魔法も! 全てグリムが与えてくれた! お前さえいなければ、『黄金宝珠』は続いていたのに!」
――ダンッ! ダンッ!
「あうっ……?!」
銃口から飛び出した魔弾が、私の両肩に被弾します。痛みはありません。ただ、わたしの体から力が抜け、身を起こす事すら出来なくなりました。
わたしの視界に映るのは、ダンジョンの土とペローナさんのブーツだけ。けれど、わたしの兎耳は彼女の声を拾い続けます。
「お前が! お前が私の居場所を奪った! なのにお前は幸せそうに、グリムの側で笑っていた!」
ペローナさんはゆっくり歩み寄ります。そして、そのブーツでわたしの頭を踏みつけました。
憎しみを込めるかの様に力を込めて、私の頭を踏みにじる。わたしはその痛みに対して、何の抵抗も出来ませんでした。
「私の魔弾は『弱体化』の効果を持つ。受ければ受ける程に体は弱り、やがては身体機能を失っていく。後何発受ければ、お前の呼吸は止まるだろうな?」
「――っ……?!」
わたしは全身に冷や汗が噴き出します。彼女の殺意は本物です。わたしを確実に殺す気なのです。
けれど、それと同時に強い恨みも持っています。それ故に、即座に殺さず恐怖を与えようとしています。
わたしが苦しむ様にと、じわじわと嬲り殺す。その為だけに、わたしへと殺し方を説明しているのです。
――ダンッ!
「ぐっ……!」
背中を撃たれました。重い病気に罹ったみたいに、体が怠くて苦しくなります。
息も深く吸えず、浅い呼吸を繰り返します。まるで、グリム様に出会う直前の、死の淵にいた時みたいに……。
――嫌だ……。死にたくない……。
――私は生きたい……!
――グリム様の元に帰りたい……!!!
「むっ……? 何だ……?!」
ペローナさんは慌てて飛退きました。わたしから距離を取って、わたしの様子を見ているみたいです。
そして、わたしは力を込めて、体を起こします。何故だか下腹部が熱くなり、徐々に体が動く様になって行きます。
「……まさか、魔力を暴走させたのか? チッ、悪足掻きを……!」
――ダンッ! ダンッ!
ペローナさんの魔弾が再び私を捉えます。一瞬怠さは増しましたが、その怠さはすぐに消えました。
体の調子が戻ってきています。わたしはゆっくり立ち上がり、目の前のペローナさんを睨み付けます。
「わたしには、貴女の恨みはわかりません……。けれど、大人しく殺されるつもりは有りません!」
私は両手の短剣を握りしめる。力は戻っており、元の状態で戦えそうです。
いえ、それどころか力が増しています。今ならば先ほどよりも、より早く動けそうな気がするのです。
「魔力で強引に『弱体化』を解除したか! だが、そんな状態は長続きせんぞ!」
――ダンッ! ダンッ!
そう言いながらも、焦った表情のペローナさん。彼女は銃撃を続けますが、不思議な事にその光景がゆっくり流れるのを感じます。
そして、弾丸を見つめながら、わたしはある光景を思い出していました。それはグリム様が地下四階で見せた、リザードマンとの戦闘シーンです。
「……ウィンド・シールド」
グリム様は風の防壁で身を包んでいました。風の属性に適性があるわたしなら、それを再現出来ると思ったのです。
――そして、予想は正しかった。
私の周囲を突風が渦巻き、黒い弾丸を弾き飛ばしました。最早、彼女の弾丸はわたしに当たる事はありません。
「ショック……ファイア……」
わたしは両手の短剣に魔法を纏わせます。これで貫かれれば、ペローナさんとて只では済まない。
「加速……加速……加速……」
そう、グリム様はそうやっていた。魔法の重ね掛けで、わたしをも超える速度を出していたのです。
ならば、わたしも同じ魔法を使えば、より速くなれるはず。相手が回避する事も、魔法を使う事も出来ない程に、高速で動けるはずなのです。
私は短剣を突き出し、身を屈めて力を貯めます。そして、全力の一蹴りで飛び出しました。
――ッダアァァァン……!!!
二つの短剣が、ペローナさんの両肩を貫きます。そして、勢いのままに吹き飛ばし、彼女を岩壁へと貼り付けにします。
「――アアアァァァ……!!!」
彼女は絶叫を上げ、そのまま頭がカクンと落ちます。魔法のダメージか痛みの為か、彼女はそのまま気を失ってしまいました。
「わたしは死にません……。わたしはグリム様の元に……!」
――ごぽっ……。
「え……?」
言葉の途中でわたしは吐血しました。そして、急速に視界が赤く染まり、力が入らずその場に崩れ落ちます。
「痛い……。痛い……! 痛い! 痛い! 痛い!」
体中に針を刺されたみたいに、激しい痛みがわたしを襲います。これまで感じた事が無い苦痛に、わたしはただ藻掻き苦しみます。
そして、わたしは身動き出来ずに地面に転がり、ひたすらに絶叫し続けるのでした。




