レッドフード(アリス視点)
今日はグリム様が朝から冒険者ギルドへと向かわれました。わたしは留守番なので、一人で庭に出て魔力操作の訓練を行っています。
少しずつではありますが、魔力の扱いはわかって来ました。初めてに比べれば、スムーズに魔力が移動できます。
まだまだグリム様には程遠い。上手く扱えてるとは、とても言えない。それでも成長は実感する事が出来ています。
焦る気持ちはまだあります。けれど、わたしはグリム様に認められている。そう、あの頂いた言葉のお陰で、わたしの迷いは晴れたのです。
『やはり、アリスは優秀だな。手に入れて正解だった』
それは食事の際の何気ない一言。けれど、グリム様に認められたという事実が、わたしの気持ちを大いに奮い立たせてくれるのです。
その言葉を思い出せば、わたしはどんな困難にも挫けたりしない。どれ程の辛い訓練だって、乗り越えられると思えるのです。
「グリム様……。アリスはもっと、お役に立ってみせます……」
グリム様を想うと、わたしの下腹部が熱くなります。魔力がこれまで以上に高まり、スムーズに扱えるのを感じられます。
体はやはりムズムズするけど、トイレに行く頻度も減りました。このまま訓練を続ければ、いずれは魔法だって扱えるように……。
――カタン……
「え……?」
わたしの兎耳が音を拾いました。それはグリム様の邸宅の中。無人のはずの場所から音が鳴ったのです。
何だろうと不思議に思い、わたしは家に視線を向けます。そして、家の中を誰かが歩く、足音らしきものも聞こえました。
「二階……? でも、誰が……」
グリム様は出かけたままです。グレーテルさんもまだ来ていません。お二人が来るなら正門からですし、庭に居るわたしが気付かないはずもありません。
そして、それ以外の人は敷地内に入れないはずです。グリム様が用意した、防犯目的の結界で守られているからです。
――パタン……
わたしは視線を音の方へと向けます。何故か二階の窓が開いたのです。しかもそこは、わたしに与えられた部屋でした。
そして、窓から一人の人物が顔を出します。それは赤いフードをかぶった、十歳程の黒い瞳を持つ少女でした。
「あの子は……。この前の……?」
以前に敷地の外から、わたしを見つめていた女の子です。その子が何故だか、わたしの部屋に居るのです。
状況がわからず、わたしは混乱しています。するとその子は、ふわりと窓から飛び降りました。
「あっ! 危ない……!」
慌てて駆け寄ろうとすますが、その子はニヤリと笑います。そして、そのまま軽やかな足取りで着地しました。
身のこなしが普通じゃない。この子が何者なのかと見つめていると、その子が握る物にわたしは気が付きます。
「わたしのポーチに短剣……」
グレーテルさんと買ったポーチ。そして、グリム様より与えられた二本の短剣。それを少女は握っていたのです。
どうしてそれを持っているのか? そう聞こうとした所で、その子はクスリと笑って駆け出しました。
「ま、待って! それを返して下さい!」
女の子は裏門の方へと駆けて行きます。その子が入って来たからか、裏門は開け放たれた状態でした。
わたしは女の子を捕まえようと後を追います。人間の女の子であれば、わたしの足ならすぐに追いつけるはずです。
そう思ったのですが、この子の足が妙に早い。徐々に距離は詰まっているのですが、敷地内から外へと出てしまいました。
「待ってください! それは大切な物なんです!」
敷地の外の裏路地は、多少なりとも人がいます。女の子はその通行人を盾にする様に、ヌルヌルと走り続けます。
真っ直ぐに走る事が出来ない。衝突する訳にいかず、どうしても速度を出せない。
わたしの方が足が速いのに、それでも女の子に追いつけません。わたしは焦りながらも、その子の後を追いかけ続けます。
「何なの、あの子は……?」
赤いフードで顔を隠し、体は赤いマントで覆われている。それ以外に特徴は無い普通の女の子。そのはずなのに、その行動はまったく普通じゃ無かった。
街に慣れているのか、女の子は迷い無く進み続ける。そして、裏路地を抜けて、大通りまで出てしまいました。
それでも女の子は止まらない。より多くの人混みの中を、スルスルと走り続けているのです。
「待って! お願いだから待って下さい!」
静止の声に耳を貸さず、女の子は走る続ける。街の人達はそんな私達の追いかけっこを、好奇の目で見つめていた。
わたしはそんな視線すら無視して、女の子を追いかけ続ける。ただ、大切な物を取り返そうと、焦りで余裕を失ったまま……。




