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元パーティーメンバー

 ギルドマスターから話があるとの事で、俺は朝から冒険者ギルドへと訪れた。普段なら無視する事も多いが、今は比較的時間もあるからな。


 中層を突破するにはアリスの成長が必要不可欠。地下四階だけなら対策魔道具も作れるが、それ以降もずっと魔道具に頼り続ける訳にはいかない。


 深層を目指すには、アリスが魔法を使える様になる必要がある。その為には少し時間を掛けてでも、今はじっくりアリスの体質を研究するべきなのだ。


 まあ、それはさて置き。今日も俺はギルドマスターの元へと即座に案内された。向かい合う形でソファーに座ると、アルベルトは挨拶すらなく問い掛けて来た。


「お前さんの所に、ペローナは来てないか?」


「ペローナ? いや、来ていないはずだが?」


 ペローナとは元パーティーメンバーの一人。俺が鍛えて盗賊として登録している女だ。


 彼女は仲間だった事もあり、家の結界も通る事が出来る。俺に用事があれば、すぐに俺の元へとやって来るはずだ。


「そもそも、ペローナは街の外ではなかったのか?」


「ハインリヒの両親を救出した件だな。確かに外に出て貰ったが、一昨日にはアンデルセンに戻っている。それで俺とも会話してるんだよ」


 ペローナは既に街へ戻っていたのか。ならば、俺の元へと顔は出しそうなものだがな。


 なお、彼女はとある理由から人と距離を取っている。ハインリヒとは良好な仲だったが、俺達以外には誰とも付き合わない人物だった。


 まあ、何を考えているのか読めない奴だ。俺には理解出来ない理由で、何かしらの活動をしていてもおかしくはないか。


「それで用件は? まさか、緊急の確認とはペローナの件か?」


「いやまあ、その通りなんだがよ。ペローナの奴、俺の話を最後まで聞かずに飛び出してな。変に拗らせてなきゃ良いんだがな……」


 アルベルトはバツが悪そうな顔で、頭をガリガリとかいている。何故か居心地が悪そうだが、俺はこいつにそこまでの興味が無い。


「話はそれだけか? それなら俺は帰るぞ?」


「いや、ちょっと待て。これは俺の独り言と思って聞いて欲しいんだが……」


 アルベルトの独り言だと? どうして俺が、そんなものを聞かねばならない?


 俺は顔を顰めるが、アルベルトは窓へと視線を逸らす。そして、独り言にしては大きな声で話し出した。


「ハインリヒは冒険者を引退してな。冒険者ギルドで雇用する事になった。新人冒険者の指導を担当するから、上位の冒険者が関わる事は無いとは思うがな」


「…………」


 なるほどな。俺がハインリヒと関わる気が無いと知っている。けれど、このギルドで働く以上は伝える必要がある。


 そう考えて、こんな一手間を取ったのだろう。俺も知っていれば無視する事も出来る。しかし、知らなければ顔を合わせて気分を損ねる可能性があるからだ。


 まあ、その気遣いは受け取っておこう。それに対して感謝や謝礼をする気は無いがな。何せこうなった一因は、こいつにもあるのだから。


「あれでも元Aランク冒険者。積んだ経験もそれなりに多い。あいつもギルドに貢献出来るならと、快く引き受けてくれたよ」


「…………」


 新人だった頃に、奴へ冒険者のイロハを教えたのは俺だ。アリスの時と同様に、ダンジョンの危険性と回避方法は真っ先に叩きこんだ。


 それを新人に教えれば、ギルドとしては助かるだろう。ダンジョンの死亡率はそれなりに高い。ハインリヒなら上手く教えられるだろうしな。


 だが、それも俺には関係が無い話だ。新人冒険者もハインリヒも、俺にとってはどうでも良い他人でしかないのだから。


「それと、あいつ肩の荷が下りたって顔してたよ。グリムにおんぶに抱っこで、足を引っ張ってるのを気にしてたからな。お前さんの足枷になるのが、本当に苦しかったらしいんだ」


「……足枷、だと?」


 確かにハインリヒは戦闘では殆ど役に立っていない。しかし、俺が煩わしいと思う雑事は、全て奴がこなしていたのだ。


 絶対に必要とまでは言えない。けれど、居れば便利な奴とは考えていた。少なくとも俺は、奴の存在を足枷だとは思った事が無い。


「まあ、お互いに会話が足りなかったんだろうよ。兎の嬢ちゃんとは、上手くコミュニケーション取ってくれや」


 アルベルトは俺に視線を移す。そして、ニッと笑って見せた。


 今まで気付かなかったが、彼は思ったよりもお節介な人間らしい。多少、煩わしい所もあるが、それでも俺に悪感情を抱いていない、数少ない人間の一人らしかった。


「……ふん。一応、覚えておいてやる」


「それで十分。俺の用事は以上だ!」


 やり切った様なスッキリした笑顔。それは何となくだが、見ていて癪に障った。


 ただ、文句を言う程の事でも無い。そう思って俺は、小さく息を吐いて部屋を後にした。


 他人になんて興味はない。切っ掛けがあれば裏切り、去って行く者達。そう思って人との距離を取って来た。


 しかし、他にも道はあったのだろうか? 俺の選んだ選択は、愚かな間違いだったのだろうか?


 アリスの顔を思い出し、俺は思わずそんな疑問が浮かび上がる。今の俺は彼女に対し、これまでと違う行動ばかり取り続けているからな……。


 最近の俺は迷う事が増えたな。そう自嘲しながら、俺はアリスの待つ家へと向かうのだった。

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