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中層

 俺とアリスはダンジョンへとやって来た。今日の目的は地下四階。中層をアリスに見せる為である。


 道中の魔物は俺が追い払い、最短ルートで目的地へと辿り着く。そして、目の前の光景に、アリスがポカンと口を開いていた。


「ここが、地下四階ですか……?」


「そうだ。地下四階は湿地帯。リザードマンが現れるエリアだ」


 眼前にはぬかるんだ沼地が広がっていた。それもこれまでの様な洞窟では無い。広大な湿地帯が果てしなく広がっているのだ。


「随分と、広いんですね……」


「ああ、中層以降は非常に広い。低層とは比べ物にならん程にな」


 最短ルートが確立されているとは言え、低層は地下三階まで日帰りで往復できる。構造も普通の洞窟であり、魔物以外を気にする必要も無い。


 しかし、中層以降はガラリと様変わりする。特徴的な地形にも注意が必要だが、何よりも広大な為に日帰り出来る場所では無いのだ。


 地下五階に向かいのであれば、数日の夜営準備も必要となる。俺が不眠不休で探索するのは難しく、今の俺達ではここが踏み込める限界となる。


「今日はあくまでも、地下四階を見せる為に来た。アリスとは相性が悪いので、それを体感して貰う為だ」


「私との相性ですか……?」


 不思議そうに俺を見上げるアリス。ここに降り立っただけでは、まだピンと来ていないらしい。


 俺は足元を指さして、アリスへと説明を行う。


「この沼地は足元が悪い。どこもぬかるんでおり、踏ん張りが効かないのだ。今のアリスでは、思う通りに動けないだろうな」


「あっ……! そういう事ですか!」


 アリスは足踏みをして足場を確かめる。ブーツが泥に僅かに沈み、まともに走れる足場では無いとわかる。


 足が武器のアリスとは、致命的に相性が悪いフィールドなのだ。今のままでは、アリスがこの階層で活躍する事は出来ないだろう。


「更に問題はリザードマンだ。こいつらは武装している。剣に盾に胸当てが標準装備だ。防御技術も持つので、急所への一撃も決めずらい」


「もしかして……。訓練して行って下さった、ゴーレム動きって……?」


 俺は静かに頷き肯定する。俺が再現したゴーレムの動きに、リザードマンのパターンも組み込んである。あの時のアリスは簡単に追い詰められていた。


「そして、リザードマンは複数体で行動する事が多い。死角を仲間がカバーするので、背後を取るのも苦労するだろうな」


「そ、それでは、私はどうすれば……?」


 見るからに狼狽えるアリス。俺は涙目の彼女に、小さな笑みを向ける。


 そして、視線を遠くに向ける。そこにはこちらを視認し、小走りに駆ける三体のリザードマンが居た。


「一つ目の手段は攻撃魔法だな。遠距離からの攻撃が有効だ」



 ――ザシュ……! ザシュ、ザシュ……!!!



 俺が発動させた風の刃が、一体のリザードマンを切り裂いた。盾や鎧で守られていない、両腕と首を切り離してやった。


「二つ目の手段は妨害魔法だ。搦手としては有効ではある」


 俺は横殴りの風をリザードマンにぶつける。急な突風により、リザードマンはその場で転倒してしまった。


 リザードマンは起き上がろうとするが、それは土の槍で刺し貫いた。リザードマンはビクリと震え、その場で息絶え霧散した。


「三つ目の手段は強化魔法だ。アリスには向いているな」


 俺は足元の土を利用して、強固な土の槍を生み出す。それを手に持つと、体全体に強化の魔法を施す。


 そして、風の防壁を張りながら、俺はトンっと軽く跳躍する。その足が大地に着く前に、俺は風の魔法で前方へと飛んだ。



 ――ドンッ! ドンッ! ドンッ!



 加速魔法のトリプルブースト。これにより速度はアリスに匹敵する。風の弾丸となった俺は一瞬にしてリザードマンの懐に飛び込んだ。



 ――ズドン……!!!



 硬化魔法で補強された槍は、リザードマンの胸を貫いた。鋼の胸当てなんて関係ない。圧倒的魔力からすれば、そんな装甲は紙にも等しいからな。


「この様に手はいくらでもある。魔法を上手く扱えればだがな」


 俺が振り返ると、アリスはポカンと口を開いていた。信じられないとばかりに、固まって俺を凝視している。


 俺の戦いを始めて見たから驚いたのだろうか? 魔法使いである俺が、接近戦をするとは思わなかったのかもな。


 俺は身を屈めると、足元の戦利品を手に取る。そこには中型の魔石と、リザードマンの片手剣が握られていた。


「なお、中層以降の魔物はアイテムを落とす時がある。主には身に着けていた装備品や体の一部。これが中級以上の冒険者が大きく稼げる理由となっている」


 今回の戦利品はシミターと呼ばれる曲刀だ。慣れるのに練習は必要だが、魔力を帯びているので魔物相手には効果が高い。


 C級やD級の冒険者には人気の武器である。高額な訳では無いが、冒険者ギルドは喜んで買い取ってくれるだ品だ。


「さて、説明は済んだな。今日はこれで帰るとしよう」


「わ、わかりました……」


 俺の言葉にアリスは頷く。今だ放心状態ではあるが、俺は彼女を伴い地下四階を後にした。

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