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昇格申請

 今日はアリスを連れて冒険者ギルドへとやって来た。アリスの昇級申請を行う為である。


 今のアリスは最低のEランク。しかし、単独でオークを狩れるEランクなど有り得ない。最低でもCランク以上でなければ、実力に見合っていると言えないからだ。


 そう思って冒険者ギルドに入ったのだが、俺達は即座にギルドマスターの元へと案内された。話が早いので良いのだが、最近はいつもこのパターンだな。


「おう、グリム! そっちが噂のアリスちゃんか!」


 厳つい笑みでアリスを見るアルベルト。アリスは緊張した様子で、気持ち俺の背に隠れている。


 慣れ慣れしいのはいつもの事だが、今日は妙にイラっと来る。俺は小さく息を吐いて答えた。


「……ああ、そうだ。今日はアリスの昇級申請に来た」


 アルベルトは大きく頷くと俺達にソファーを勧める。獣人奴隷であるアリスの着席を、当然とする姿勢は少し好ましい。


 俺とアリスは並んで座り、アルベルトが向かいに座る。そして、彼は身を乗り出して、俺に問い掛けて来た。


「で、嬢ちゃんはどの程度だ?」


「昨日、一人でオーク三十体を倒している。俺のサポートは一切無しでだ」


「はっ……? マ、マジかよ……」


 アルベルトはアリスを凝視する。その不躾な視線に、小さなアリスは更に身を小さくする。


 まあ、信じられない気持ちはわかる。冒険者に体格は関係無いとはいえ、それでもアリスの実力は異常なのだ。


 まだ成人もしていない少女が、大半の冒険者より強い事になる。それも少し前までダンジョンに入った事の無い、まったくの素人だったのにだ。


 アルベルトは困った表情で頭をかく。そして、俺に対して問い掛けて来た。


「戦闘スタイルは?」


「超高速の接近戦タイプ。盗賊と言うよりは、暗殺者に近い戦い方だな」


 アルベルトはアリスの兎耳に視線を向ける。そして、納得した様子で頷いていた。


 そして、しばらく考えてから、更に俺へと質問を続ける。


「次からは中層だな。深層にはどの程度を考えている?」


「深層に挑むには一ヵ月程度掛るだろう。特に地下四階はアリスと相性が悪い」


 低層の地下三階までは、アリスの戦闘スタイルと相性が良かった。だからこそ、ここまで一気に駆け抜けれた側面を持つ。


 しかし、中層からは簡単に攻略できる場所ではない。中層を抜ける為には、アリスは自らの魔力を物にしなければならない。


「なら、ひとまずはC級にしとくか。B級は実績積んでからの方が無難だろ?」


「C級にしておく? まさか、試験を免除させる気か?」


「グリムが言うなら間違いねぇだろ? 何せお前さんには実績があるからな」


 ニヤリと笑うアルベルト。恐らくそれは、かつてのパーティー『黄金宝珠』の事を言っている。


 ハインリヒともう一人の仲間であるペローナ。その二人も俺が魔道具を与えて育成したのだ。


 その二人も短期間でAランクへと到達した。その実績を持って、俺の証言を信じると言う事らしい。


 本来ならば実技試験や筆記試験が必要となる。その対策は済ませてあるが、しなくて済むなら時間の節約にはなるな。


 こちらとしては断る理由が無い。俺はその申し出を受けておこうと決断する。


「礼を言うつもりは無い。そちらも思惑有っての事だろうからな」


「別に構わんさ。それよりも一日でも早く、深層に向かってくれ」


 アンデルセンの街が栄えているのはダンジョンのお陰。そして、ダンジョンから資源を持ち帰るのが冒険者の役割である。


 その中で最も稼ぎ頭だったのが『黄金宝珠』だった。それが活動停止した事で、今後は少なくない影響が出ると考えているのだ。


 とはいえ、大魔石は俺が全て受け取り、魔晶石にしてヘンゼルへと売っていた。一番の収入減になるはずの品は、冒険者ギルドに入っていなかったりする。


 それでも冒険者ギルドへは、その他の収集品や攻略情報等を売っている。その程度でも稼ぎ頭と言われる程に、俺達の実力が頼り抜きんでていたという訳である。


「では、時間も出来たしダンジョンへ向かう。問題は無いな?」


「ああ、問題無いとも。どんどんダンジョンに潜ってくれや!」


 俺の問いにアルベルトはニッと笑う。その答えを聞いて、俺はソファーから腰を上げた。


 隣のアリスも同じく腰を上げる。ただ、こちらはその場でペコリと頭を下げた。


「あ、ありがとう御座います! ご期待に沿える様に頑張ります!」


 アリスの言葉にアルベルトが目を丸くする。まさか、アリスからお礼を言われるとは思っていなかったのだろう。


 かく言う俺も同じではある。驚きで硬直していると、アルベルトがニカッと笑った。


「ははは、期待してるぜ! グリムと上手くやってくれよな!」


「はい、わかりました! 全力でグリム様をお支え致します!」


 アルベルトは荒々しくアリスの頭を撫でる。アリスは困惑しつつも、嬉しそうな笑みをアルベルトへ返した。


 俺はそのやり取りに、何故だかモヤっとした気持ちとなる。何となく落ち着かなくなり、俺は低い声でアリスに告げた。


「何をしている。行くぞ、アリス」


「は、はい! わかりました!」


 俺が扉に向かうとアリスが慌てて追い掛けくる。理由は不明だが、俺は早くこの場から立ち去りたかった。


 もしかすると、その理由はアルベルトにあるのかもしれない。チラリと見えた彼のにやけ面が、妙に俺を苛立たせたのだ。

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