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昼下がりの帰路

 地下三階でもアリスは苦戦する事が無かった。単独でオークを狩れる冒険者は、この街では数える程しかいない。


 無論、Cランクならパーティーで余裕な対手だし、Bランク以上も数は少ないが単独で倒せる者はいる。


 しかし、今のアリスは最低のEランクだ。これは流石に実態と乖離し過ぎている。もう少し先と思ったが、早々にランクアップ申請を行うべきだな……。


 街へ戻った俺達は、並んで街の繁華街を歩いていた。時間は正午を少し過ぎた辺り。どの飲食店もある程度落ち着いた時間帯である。


 俺は思考を中断し、隣のアリスに視線を向ける。そして、笑顔の彼女に問いかけた。


「少し遅くなったが昼食にしよう。何か希望はあるか?」


「希望ですか? その、何があるのかわからなくて……」


 確かにアリスは街に馴染んでいない。何処に何が売っているのかも、まともに把握出来ていないだろう。


 この辺りも、俺とグレーテルが一緒に案内して以来。その他と言えば、グレーテルと出かけた際に誘拐された時だけとなる。


 アリスに選ばせるのも酷かと思い、俺は飲食店に視線を向ける。このアンデルセンの街は栄えているので、選べる店の数は非常に多い。


 しかし、アリスと共に食事を出来る店はごく僅か。獣人奴隷は入店禁止の場合が殆どだからな……。


「まあ良い。適当に屋台で買うとするか。欲しい物があれば言え」


「はい、わかりました! 以前のフルーツは美味しかったです!」


 グレーテルが勧めたフルーツを刺した串か。やはりアリスも小さな少女。甘い物が好きらしい。


 以前であれば肉を勧めたが、今は肉付きも問題無い。昼くらいは好きな物を食べさせても問題ないだろうな。


 俺とアリスは適当な屋台で昼食を買う。そして、歩きながら食事を取る。貴族でもあるまいし、マナーを気にする必要はないからな。


 ただ、食事を終えた俺はアリスの様子に気付く。先程からしきり兎耳を動かし、周囲の様子を窺がっているみたいだった。


「どうした? 何か気になる事があるのか?」


「いえ、何だか皆さんに見られている気が……」


 確かに周囲の視線は俺達に向けられている。ただ、俺と視線が合うと、慌てて視線を逸らしてしまう。


 まあ、これはいつもの事だ。俺はそれなりに恐れられている。アリスへ悪意が向いていないなら、特に気にする程の事でも無い。


 しかし、アリスは何やら困惑した様子で、俺を見上げながら問い掛けて来た。


「あの、グリム様……。魔王って何でしょうか?」


「魔王だと? それは、物語の魔王のことか?」


 唐突な問いに、俺は顔を顰める。すると、アリスも困惑の表情で説明を始める。


「その、どうも街の皆さん。グリム様を見て、魔王って囁いてるみたいです……」


「俺を見て……?」


 俺は多くの書物を読んで来た。参考として空想上の物語等にも目を通している。


 その中のいくつかに魔王は登場する。それは多くの場合、「悪」の象徴として描かれるのだが……。


「……空想の物語に魔王は登場する。それは魔物達の王であり、人を脅かす恐怖の象徴としてだ。読み手にとってわかりやすい、強大な悪役としての配役だな」


「それが魔王……。なら、どうしてグリム様が……?」


 何となくだが心当たりはある。アリスの救出に向かう際に、俺は邪魔が入らぬ様にと魔力を解放した。


 最短距離で行く為に屋根を走ったが、それでも目撃者は居たのだろう。そして、魔力を持たぬ多くの者が、俺に対して恐怖を抱いたのだ。


「……まあ、気にするな。一時的なものですぐに収まる」


「わ、わかりました。グリム様がそう仰られるなら……」


 アリスは納得のいかない表情だが、それでも渋々と納得する。俺の言葉に逆らうつもりが無いのだろう。


 とはいえ、正直に話すのも得策とは言えない。アリスは自分のせいで、俺の悪名が広がったと気にしかねんからな。


 俺はアリスの頭をくしゃりと撫でる。すると、アリスは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 しかし、次の瞬間に顔色を変え、急に背後へと振り返った。


「――っ……?!」


「どうした、アリス? 何に気付いた?」


 俺も常に警戒はしている。魔力の波動で周囲の状況を探っているのだ。しかし、俺の警戒には何も引っ掛かるものは無かった。


 しかし、アリスは俺に無い聴覚と、野生の勘を持っている。俺には気付けない、何かに気付いたのかもしれない。


「いえ、気のせいだと思います。少し首の辺りが、チリチリした気がしたのですが……」


「首の辺りが?」


 俺はそっとアリスの首に触れる。しかし、傷跡も無いし、スキャンでも何も確認出来ない。


 念の為に周囲の警戒を強めるが、俺の魔法に引っ掛かる物は無い。何者かに狙われていると言う状況でも無さそうだ。


「……早めに帰るとするか」


「はい、そうしましょう……」


 俺は何となく胸騒ぎを感じる。あまりここに長居をすべきでは無い気がしたのだ。


 そして、それはアリスも同じ考えみたいだった。俺達は頷き合うと、足早に家へと向かうのだった。

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