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優しい主人(アリス視点)

 今日は色々あって、疲れたはずなのに眠れません。わたしは与えられた自室のベッドの上で、ぼんやりと天井を眺め続けます。


 グリム様には早く寝ろと言われています。ですが、先程から聞こえる物音が気になるのです。グリム様の言い付けは守れそうにありませんでした。


 わたしはベッドを抜け出し、そっと廊下へと出ます。廊下には小さな魔法の照明があり、薄暗いけど足元が見えない事はありませんでした。


 そして、一階へ降りると研究室へと向かいます。扉の隙間からは明かりが漏れ、わたしの耳はカチャカチャと言う音を拾いました。


 わたしが扉を開くと、作業中のグリム様の背中が目に映ります。グリム様はチラリと視線だけ向けると、わたしへと問いかけて来ました。


「どうした。眠れないのか?」


「はい、今日は色々とあって興奮してるみたいで……」


 わたしが答えると、グリム様はそうかと頷きます。そして、視線をテーブルの上に向けると、何かの作業を再開します。


 追い出される事が無かったので、わたしは部屋へと踏み込みます。グリム様の手元を覗き込むと、ブレスレットとブーツを加工しているみたいでした。


「……グレーテルを巻き込んだからな。打てる手は打っておくべきだろう」


「もしかして、グレーテルさん用の魔道具ですか?」


 わたしの問いに、グリム様は静かに頷きます。やはり、グレーテルさんの為に、魔道具を作っているみたいです。


 わたしの頂いた物と同じかと覆いましたが、魔晶石の色が違っている事に気付きます。それを察してか、グリム様が再び口を開きました。


「ブレスレットは治癒能力を高める効果を付与してある。これがあれば止血程度はすぐだ。状況にもよるが、失血死を免れる場面もあるだろう」


 そういえば、グレーテルさんは貧血状態だったそうです。刺し傷はグリム様が治療しましたが、流れた血までは回復しなかったそうです。


 食事を取って眠れば、ある程度は自然に回復する。無理をする必要がなければ、自然に回復させる方が体に良いと仰っていました。


「ブーツは速度を上げる効果と、走っている際に風の防壁を張る効果だな。投げナイフや矢等の軌道を逸らす効果がある。完全に守れるとは言えんが、無いよりは遥かにマシだろう」


 グレーテルさんは投げナイフにより刺されました。それに対する対策も盛り込んだみたいです。


 同じ状況が起きるかはわかりません。けれど、これがあればあの襲撃も、違う結果を迎えていたかもしれないですね。


「…………」


 グリム様は私の視線も気にせず、黙々と作業を行っています。魔法の効果を付与しているのか、何をしているのかは理解出来ません。


 けれど、その真剣な横顔は凄くカッコイイなと思いました。わたしが静かに見つめていると、ふいにグリム様が離れた場所にある椅子を指さします。


「見ているつもりなら椅子を使え。立っていても疲れが溜まるだけだ」


「あ、ありがとうございます……。それでは、失礼させて頂きます……」


 口調はとても素っ気ないものですが、わたしは気遣いに嬉しくなります。グリム様は私を蔑まない。追い払わない。側に居て良いと示してくれる。


 わたしは上機嫌になり、椅子を引っ張って来ます。そして、グリム様のすぐ隣に座り、そっと手元を覗き込みました。


「うわぁ……」


 とても細やかな指使いで、ブーツを加工しています。今は魔晶石を埋め込む台を整えているのでしょう。固そうな金属が、簡単に形を変えて行きます。


 更にはグリム様の指先が仄かに輝き、金属台へをそっと撫でます。すると金属台は明るく輝き、見るからに明るい色へと変化しました。


「綺麗ですね……」


「魔力を宿すと色が鮮やかになる。付与の成功が判別しやすい、そういう素材を利用している」


 淡々とした口調でしたが、わざわざ説明をして下さいました。わたしはその事に内心で驚きます。


 作業に集中していても、わたしを気に掛けてくれている。やはりグリム様は、とても優しい御方なのだなと感じたのです。


「むっ……?」


「えっ……?」


 グリム様の手が止まり、ふっと視線が肩に向きます。そこでわたしも気付きました。わたしが身を乗り出したせいで、互いの肩が触れ合っていたのです。


 わたしは慌てて身を引きます、余りに距離が近すぎました。奴隷の分際で気軽に触れるなんて、叱責されても仕方がない事です。


「も、申し訳ありません! わたし何かが気軽に触れて、ご不快に感じさせてしまい……!」


「……別に不快では無い。その程度は気にするな。邪魔にならないなら、好きに触れれば良い」


 グリム様はそう告げると、再び視線を手元に戻します。そして、何事も無かったかの様に作業へと戻られました。


 わたしは内心でドキドキしながら、グリム様の様子を窺がいます。けれど、本当に不快そうだったり、怒った様子は見られませんでした。


 というか、よくよく考えると今日は、わたしのお願いで手を繋いで貰いました。わたしの不躾なお願いにも、グリム様は動じる事無く応じてくれたのです。


「……えへへ♪」


 そう、わたしのご主人様はとてもお優しい御方です。この程度のことで怒ったりする、他の人間達とは違うのです。


 わたしはそっと身を寄せ、再びを肩と肩を触れ合わせます。互いの体温を微かに感じられる、そんな邪魔にならない距離まで詰め寄りました。


 グリム様は特に反応を示しません。なので作業が終わるまでずっと、わたしはその距離でグリム様と並んで座り続けるのでした。

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