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決別

 俺が遅めの昼食を取っていると、家にヘンゼルがやって来た。何でも冒険者ギルドから、俺に対する出向命令が出ているらしい。


 俺はアリスの手料理を食べ終わると、ヘンゼルと共に冒険者ギルドへ向かう。面倒ではあるが、ジャバウォックの件を報告する必要はあるだろうからな。


 そして、俺が冒険者ギルドへと到着すると、すぐにギルドマスターの元へと案内された。そして、応接室へと踏み込むと、そこには想定外の人物が待っていた。


「何故、ハインリヒがいる……」


「済みません、グリムさん……」


 ソファーに腰掛け、気まずそうに視線を逸らすハインリヒ。俺が二度と話し掛けるなと言った事を、彼は忘れていないのだろう。


 俺は苦々しい思いでハインリヒを睨み付ける。すると、窓際に立っていたギルドマスターが、ハインリヒの隣に腰掛け俺へと告げた。


「色々と事情を説明する必要がある。まずはお前達も座ってくれ」


「チッ、手短に済ませろ……」


 怒りに任せて帰っても良かった。しかし、この場にヘンゼルが呼ばれた理由が気になっていた。


 俺は苛立ちを抑え、ヘンゼルと共にソファーへと腰を落す。すると、向かいに座るギルドマスターは、頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。


「今回は色々と想定外の事が多すぎた。俺の計画で皆に迷惑を掛けた事は済まなく思っている」


「…………」


 俺は静かに状況を見守る。ハインリヒは青い顔で俯いている。そして、ヘンゼルは渋い顔で俺の様子を見守っていた。


 どうも状況的には、二人は事情を知っていそうだな。この場は俺に対する説明会だと思って間違いないだろう。


「まず、ハインリヒがグリムを追放した件だ。これは俺が指示を出した。周囲の噂になる様に、わざとギルドの酒場で演技して貰ったわけだ」


「何だと……?」


 ハインリヒが演技を行っていた? 俺のパーティー追放が演技だったと言うのか?


 俺はハインリヒへと視線を向ける。しかし、彼は青い顔で俯いたまま、拳を握って身を震わせていた。


「そうして貰った理由は、ハインリヒの両親が人質に取られたからだ。グリムに接触したいジャバウォックが、そうやってハインリヒを仲間に引き込もうとしたってわけだな」


「ジャバウォックか……」


 俺は再び怒りが込み上げる。アリスの件と言い、ハインリヒの件と言い、奴等とはいずれ決着を付ける必要がありそうだ。


 だが、今はこの愚かなシナリオを確かめるべきだ。どうしてこいつらが、こんな茶番を演じていたのかを知る必要がある。


「ハインリヒとグリムが喧嘩別れしたと思わせて時間を稼いだ。その間に、ペローナへとハインリヒの両親を救出に向かって貰った。それと同時に、本来ならあの後すぐに、グリムにも事情を説明するつもりだったんだがな……」


 ペローナは『黄金宝珠』のもう一人の仲間。索敵等を得意としており、冒険者ギルドでは盗賊として登録している奴だ。


 姿が見えないと思っていたが、この街を離れていたらしい。俺に何も告げずに行くとは、一体何を考えているのやら……。


「あの後にすぐ、僕とグリムさんは奴隷商に向かったじゃないっすか? なのでギルドの連絡員と、すれ違いになってたみたいなんすよ」


 ペローナの事を考えていた俺に、ヘンゼルがフォローを入れる。やはりと言うべきか、事前に事情を聞いていたらしい。


 俺は目を細めて非難の視線を向ける。すると、ヘンゼルは慌てて俺へと弁明して来た。


「いや、聞いたのはつい先日っすよ! そうじゃなきゃ、奴隷商に行こう何て言うはずが無いっす!」


 確かにヘンゼルが冒険者ギルドと深く関わっているとは思えない。大方は俺へのフォローを期待し、ギルドマスターが巻き込んだのだろう。


 まあ、ヘンゼルは俺と一蓮托生な商売をしている。俺を裏切って冒険者ギルドに肩入れするはずが無いか。


「そんでまあ、先程連絡があってな。ハインリヒの両親も救出が終わったらしい。この街の手先はグリムが制圧したみたいだしな。これでまた、『黄金宝珠』の活動が再開可能になったってわけだな!」


「……愚かだな。愚かだぞ、アルベルト」


 俺は余りの能天気さに、怒りを通り越して呆れ果てる。こいつはこれで、全てが片付いたと思っているらしい。


 俺に冷たい視線を向けられ、ギルドマスターが狼狽える。そして、俺はハインリヒへ視線を向けて言い放つ。


「俺は一度裏切った者を信じない。もう二度とハインリヒと組む事は無い」


「い、いや待てよ! 『黄金宝珠』はAランクのパーティーだぞ? それに、ハインリヒだって……!」


「――俺では無く、ギルドを選んだ。それだけのことだ」


 そもそもの話として、まず俺に相談すべきだった。俺であればギルドより、より最適な手段を模索出来たはずだ。


 しかし、ハインリヒは俺では無く、ギルドマスターへと相談した。俺にとってはそれが全てなのだ。


「俺にはアリスがいる。最早、ハインリヒは必要ない」


 俺はそれだけ告げると立ち上がる。それを見たヘンゼルも、俺に倣って立ち上がった。


「なっ……?! おい、グリム! ちょっと待てって……!」


 俺とヘンゼルはその声を無視し、応接室を後にする。俺が軽く威圧した事も有り、ギルドマスターはそれ以上は引き留めようとしなかった。



 ――結局、何も言い訳をしなかったな……。



 終始うつむいたままだったハインリヒ。俺は不要となった彼の存在を、脳裏から消そうと決めたのだった。

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