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裏取引

 俺は眼帯の男を治療し、ついでに大柄の男も四肢を治療してやった。そして、その二人の男達は目の前で、お行儀良く正座をしている。


「さて、まずはアリスを攫った理由だ。魔晶石の製法のためか?」


「い、いえ……。ボスからの指令は、旦那を組織に引き込むか……。その、拒否するなら見せしめに嬢ちゃんを……」


 眼帯の男は話しながらに顔を青くする。自らの説明により、俺の怒りを買う事を恐れたのだろう。


 しかし、そんな所だろうと予想は出来ていた。なので俺は、冷静に眼帯の男へと問う。


「ならば、どうして魔晶石の製法なのだ? それはボスの指令では無いのだろう?」


「その、俺達も命が惜しかったもので……。実行不可能な指示だとわかっても、指令を断れば殺される……。なら、代わりの手土産をと考えてまして……」


 眼帯の男はブルブルと身を震わせている。その隣の大柄の男も、同じく恐怖に震えていた。


 アリス奪還の襲撃以前に、こいつ等は俺の怖さを知っていた。だからこそ、こんな愚かな手段に出たのだろうな。


 俺は隣に立つアリスを見る。今の彼女は魔道具を取り戻し、短剣やブーツを身に着けていた。


「アリスの誘拐ならば、勝算があると踏んだのか?」


「ち、違うんだ、旦那! ボスが『グリムリーパー』を派遣して、俺達は断れなかったんだよ!」


「それに俺達みたいな冒険者崩れが、嬢ちゃんに敵わないのも理解してる! 二度とやらねぇ!」


 必死に弁解する男達。断れない理由があり、今後はそれを行う気も無いと言いたいらしい。


 二人も元冒険者なら、強さが体格に比例しないと理解している。アリスが小柄な少女だからと、侮るつもりはないのだろう。


 まあ、それはどうでも良いが、『グリムリーパー』の名が気になる所だ。凄腕の暗殺集団と噂は聞くが、犯罪組織の『ジャバウォック』とも繋がりがあるのか……。


 男達は目に涙を浮かべ、必死に同情を誘おうとしている。アリスなら兎も角、こんなむさい男達に見つめられても気分が悪いだけだな。


「よし、わかった。お前達はジャバウォックと手を切れ。そして、ジャバウォックに関する全ての情報を俺によこせ」


「そりゃあ、構わないんですが……。それで旦那はどうするんです?」


 問う眼帯の男は、意外にも前のめりだった。何やらその表情には期待の色も滲んで見えた。


「俺のアリスに手を出したのだ。当然ながら報復する。ジャバウォックに関わる全てを、この街から排除する」


 このアンデルセンの街に、ジャバウォックの手先を残す気は無い。そんな危険分子を見逃せば、再びアリスが狙われる可能性がある。


 俺のアリスに手を出せばどうなるか、この機会に徹底的に教えてやるべきだろう。


「じゃ、じゃあ、外からジャバウォックの関係者が潜り込んだら? 旦那はそいつらをどうする気なんです?」


「ふん、面倒な話だが潰すしかあるまい。そんな奴等がいれば、お前達も俺に知らせろ」


 一時的にジャバウォックの関係者を一掃しても、再び手の者が送り込まれる。それは当然ながら、俺も理解をしていた。


 だが、俺が常に監視する訳にも行かない。存在に気付けば潰す。当面はその程度になるだろうと考えていた。


 それだと言うのに、眼帯の男は興奮した様子で叫び出した。


「わ、わかりやした! ジャバウォックの同行は俺達が目を光らせます! 俺達じゃ手に負えない時は、旦那にお知らせすれば良いんですね!」


「……何故だ? どうしてお前は、そんなに嬉しそうなんだ?」


 俺を恐れるこいつらなら、俺の不興を買う行為はしない。けれど、積極的に協力するとまでは考えていなかった。


 だが、男は飛び上がりそうな程の喜びを滲ませている。その態度に首を傾げていると、男は嬉しそうにこう叫んだ。


「そりゃあ、当然じゃねえですか! この街じゃ無く子も黙る、グリムの旦那ですよ? そいつがバックに付きゃあ、誰も俺達に逆らえねぇ! 今後はジャバウォックと手を組もう何て、馬鹿な考え起こす奴も生まれねえはずでさぁ!」


「おい、待て。俺はお前達の面倒は見んぞ? ましてや、貴様等のボス等と言う、面倒事は引き受けんからな?」


「わかってますって! 旦那にゃ迷惑掛けねぇですって! 俺達と旦那に繋がりがあるって、そう臭わせるだけで十分なんでさぁ!」


 眼帯の男の言い分はわかった。つまりは、虎の威を借りる狐となりたいのだろう。


 俺はメリットとデメリットを天秤にかける。しばらく考えた後に、ゆっくりと頷いた。


「良いだろう。ジャバウォックの監視をお前達に任せる。ただし、俺を怒らせたら即座に切り捨てるからな?」


「へへ、そりゃあ当然わかってますって! なんせ俺達は裏社会の人間! その辺りは弁えてますって!」


 こいつらが問題を起こしても、俺は無視を決め込めば良い。俺とこいつ等の繋がりなんて、大してある訳では無いのだから。


 そして、ジャバウォックの取り締まりを任せられるのは大きい。それによって、アリスの身の安全が手に入るのだからな。


 俺が満足して頷くと、目の前の男達は顔を輝かせる。そして、二人は俺に改めて挨拶を行う。


「こっちの世界に入った時に、元の名前は捨てましてね! 今は『Mr.ダンディ』って名乗ってます!」


「俺っちは『ビッグボーイ』って名乗ってます! 旦那、これからは精一杯お役に立たせて頂きます!」


 この結果は想定外だが、悪い結果では無いだろう。自由に使える手駒が手に入ったとも考えられる。


 ネーミングセンスはイマイチだが、役立つ内は使ってやろう。アリスの身を守る為にな。


 俺は隣のアリスに視線を向ける。彼女は目を大きく見開き、俺に畏怖の眼差しを向けていた。

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