表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/127

目的

 アリスのセンスはかなりの物だ。ゴブリンを五匹倒した辺りで、動きに硬さが取れた。戦闘に対して臆する事が無くなった。


 そして、訓練のお陰もあるのだろうが、俺からの指示にも迷いが無い。言われた事を、言われた通りに実行するのだ。


 今まで戦った事の無い少女が、熟練の兵士の様に。或いは操り人形の如く、無感情に魔物を殺して見せる。


 正直、アリスをここまでの逸材とは思っていなかった。奴隷として購入した際に描いた計画より、かなり前倒しで活動が再開出来るかもしれない。


「グリム様、どうなさいましたか?」


 じっとアリスを観察していたら、不思議そうにこちらを見つめ返して来た。その表情はあどけなく、何処にでもいる少女みたいに見える。


 しかし、その足元には複数の魔石が転がっている。数時間の戦闘経験だけで、群れたゴブリンすら狩って見せたのだ。


「……ふむ、そうだな。ここは素直に褒めておこう。想定以上の結果だった」


「えへへ、そうですか? 訓練で戦ったゴーレムに比べれば、大した動きでは無かったので♪」


 アリスは褒められて、嬉しそうに歩み寄る。いつもより半歩程近い距離に、俺は何となく彼女の気持ちを察する事が出来た。


 俺は手を伸ばして、アリスの白髪を優しく撫でる。彼女は気持ち良さそうに目を細め、長い耳をピコピコと動かしていた。


「このペースならば、中層へはすぐにでも潜れそうだな。目的となる深層へは、まだ準備にも時間が必要となるが」


「……目的の深層? それは魔晶石の為でしょうか?」


 アリスが上目遣いに尋ねて来る。わからない事は聞けと命じたので、早速それを実践したのだろう。


 俺は説明の為に、アリスの頭から手を離す。彼女は残念そうな視線を向けるが、今はそれを無視して説明を始める。


「魔晶石の為に大魔石は集める。しかし、それは活動資金の為であり、俺の目的とは言えない。俺の最終的な目的は、ダンジョンの最深部へと到達する事だからだ」


「ダンジョンの最深部ですか? それはどうしてでしょうか?」


「ダンジョンの最深部にある、ダンジョンコアを手にする為だ」


 アリスは俺の説明に首を傾げる。ダンジョンコアが何かを知らないみたいだった。


 それは冒険者ならば誰もが知る存在。そうで無くても、多くの人々に知られた存在である。


 しかし、兎人族では知られていないのだろう。ダンジョンを中心に発展した、人間ならではの知識なのかもしれない。


「ダンジョンコアはダンジョンを生み出す装置であり、全ての冒険者が目指す秘宝でもある。これを手にした者は、望む物が何でも手に入ると言い伝えられている」


「望む物ですか……。グリム様は何か望みがあるのでしょうか?」


「いや、特には無い。俺はその伝承が真実か確かめたいだけだ」


 俺の回答にアリスが目を丸くする。驚きのあまり、ポカンと口も開きっぱなしとなる。


 その反応に俺は苦笑する。そして、俺の持論を語って聞かせる。


「道筋を整え、正しい手順を踏めば、欲しい者は大抵手に入る。俺が欲しいと思った物は、全て自らの手で掴めば良い。そんなあやふやな伝承に頼るまでも無くな」


「なるほど……。流石はグリム様です!」


 アリスはキラキラした目で俺を見上げる。その素直な憧憬の眼差しに、俺は何故だか落ち着かない気分となる。


 他の愚者に語れば、必ず反発意見が飛び出した。或いは出来るはずが無いと考え、黙って愛想笑いを浮かべる者ばかりだった。


 アリスにはその心配が無いと思うが故か、俺はいつもより口が軽くなる傾向にある。その事に気付いて、俺は自重すべきだなと反省する。


「まあ、なんだ。強いて言うなら、俺が欲しいのは知識。ダンジョンとは何なのか? ダンジョンコアとは何なのか? その知られざる秘密を、自らの手で解き明かす事を望んでいる」


「教えて頂き、ありがとうございます! わたしもそのお手伝いを出来る様に頑張りますね!」


 アリスは嬉しそうに笑みを浮かべる。その純粋な笑みに、俺は心が揺れるのを感じていた。


 アリスと共に居ると、俺は感情の揺らぎを良く感じる。しかし、それは決して不快ではない。心地良い揺らぎであると感じていた。


 その原因が何かは未だ把握出来ていない。ただ、何処かで無くした何かを、再び取り戻した様な不思議な感覚であった。


「グリム様、どうなさいました?」


「いや、何でもない。先に進むか」


 俺がそう告げると、アリスはそれ以上を問わない。素直に頷き、再び魔物を探し始めた。


 きっと、アリスのこの距離感なのだろう。俺に対して踏み込み過ぎず、けれど俺の側に居よう努めてくれる。


 俺はアリスが側に居ると心地良いのだと、何となくだが理解し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ