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魔物

 ダンジョンの中は岩壁の洞窟になっていた。外からの明かりは入り込まないが、ダンジョンには代わりに明かりがある。


 それが、光生石と呼ばれる壁に埋め込まれている石だ。ダンジョンに満ちた魔力を吸って、光り続ける石である。


 多くのダンジョンで採掘可能なので価値は低い。しかし、一番利用頻度の高い、照明の魔道具に使われる素材でもある。


 不思議そうに光生石を眺めるアリスに、俺は声を抑えて話し掛ける。


「少し先に魔物が居る。アリスなら気付いているな?」


「あ、はい……。何か居るのは気付いてましたが……」


 アリスの兎耳がピクピクと動く。薄暗くて目視は出来ないが、音で存在には気付いていた。


 俺はその事実に口角を上げる。やはりアリスには、俺の望んだ能力が備わっていたらしい。


「では魔物について説明してやる。俺の後について来い」


「はい、わかりました……」


 俺が魔物の元へと向かうと、アリスは大人しくついて来る。下手に怯えたり、この状況で質問しないのには好感が持てる。


 俺達は少し歩いた先で、子供程の大きさの魔物――ゴブリンの姿を確認した。


 肌は緑で衣服と言えば腰に巻いた布のみ。ただし、手には武器となるこん棒を所持している。俺は魔物を指さし説明を始める。


「あれはゴブリンと呼ばれる魔物だ。知能は人間の三歳児並み。力も子供程なので最弱の魔物と言っても過言ではない」


「そうなのですね……」


 アリスは緊張した声を返す。自分より小さな存在とはいえ、魔物を目にして警戒心を露わにしていた。


 そして、それは相手も同じだった。相手は一匹でこちらは二人。戦うか逃げるかで悩んでいる様子だった。


 しかし、今は説明の為にも逃がす訳にはいかない。俺は魔法を発動させて、大地から槍を出現させる。


「ギヤァァァ……!!!」


「ひっ……?!」


 腹部を貫かれて、足は地面から浮き上がる。即死しない様に槍で貫き、身動きできない状態にしたのだ。


 俺は相手の武器が届かぬ距離まで近寄り。アリスに向かって説明を続ける。


「見てわかる通り、ダンジョンの魔物は傷付けても血が流れない。基本はダンジョンが生み出した魔法生物。俺が訓練に用意したゴーレムに似た物と思えば良い」


「ま、魔法生物……?」


 アリスは怯えた表情でゴブリンを見つめる。苦しみもがく姿に、可哀そうだと視線が語っていた。


 しかし、俺は風魔法でゴブリンの手足を切り飛ばす。胴体から離れた四肢は、灰になってサラサラと崩れて行く。


「ダンジョンの魔物は生命では無い。侵入者を阻むための装置でしかないのだ。ダンジョンへと踏み込む以上は、魔物を殺す事を決して躊躇うな」


 俺は魔法を更に発動させ、土の槍から更なる槍が生える。茨の様に棘だらけとなった槍は、ゴブリンの体をズタズタに引き裂いた。


「――っ……?!」


 そして、塵となって消えるゴブリンに、アリスが目を大きく見開く。俺はその跡地へと歩み寄り、足元から黒い小石を拾い上げた。


「これが魔石だ。魔物を生み出す核となる物だな。ダンジョン内に放置すれば、また魔物として再生する。基本は持ち帰って冒険者ギルドへと売る事になる」


「な、なるほど……」


 ちなみに、低層の小魔石は大した額にはならない。これ一つではパンも買えない金額でしかない。


 何故なら、市場に溢れる程に手に入るから。そして、大した魔力を取り出せず、魔道具に使ってもさほどの魔法を再現出来ないからだ。


 精々がカイロ代わりにマントの裏に仕込むとか、革の水筒に仕込ませてジワジワ水を生み出す程度の利用が関の山。


 まあ、俺みたいに魔晶石化出来れば話は別だがな。アリスのブーツに使っているのも、この小魔石三つずつなのだから。


「さて、それでは次はアリスの番だ。炎の魔法で遠隔から倒して見ろ」


「わ、わかりました! やってみます!」


 アリスは僅かな恐怖を飲み込み、腰の短剣を引き抜いた。そして、耳を動かして次の獲物を探し始める。


 その度胸と行動力に俺は大いに満足する。ハインリヒの初戦闘時とはえらく違っている……。


「――チッ……」


 かつての記憶を思い出し、俺の胸中に苦い思いが溢れる。今となってはどうでも良い存在なのに、奴の顔を思い出すと気持ちが落ち着かなくなる。


「グ、グリム様……?」


 俺の変化に気付き、アリスが心配そうに見上げていた。俺はゆっくり息を吐き、自分の感情を落ち着ける。


 そして、次にアリスの白い髪を優しく撫でる。何故だかこうすると、俺の心が落ち着くのだ。


「少し嫌な事を思い出したが、もう大丈夫。先へ進もう」


「は、はい! それでは、魔物の元へと向かいますね!」


 アリスは僅かに気遣う様子を見せたが、すぐに笑顔で大きく頷いた。


 その反応から俺は気付く。アリスは俺の顔色を見て、これ以上は踏み込むべきではないと判断したのだ。


 アリスはまだ十三歳の少女だ。そんな子供に気を使わせるとはな……。


 俺は自らの未熟さを恥じる。賢者へと至る道は長いなと、内心で一人呟くのであった。

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