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ダンジョン

 今日はアリスとダンジョンに入る事にした。ダンジョンを説明すると共に、彼女の資質を確かめる為でもある。


 本格的な攻略はまだ先になるが、低層を日帰りで入る程度ならば問題無い。俺は街の中心地にある、ダンジョンの受付までやって来た。


 グルリと囲まれた石壁に、金属製の鉄格子の扉。その隣には備え付けられた小さな小屋。ここがアンデルセンの街に存在する、ダンジョンの入り口となっている。


「ここで受付を行う。ギルドカードは持っているな?」


「はい、持ってます。こちらで見せれば良いんですね?」


 アリスはポーチからギルドカードを取り出す。そして、その視線を前方の兵士へと向ける。俺は小さく頷いて兵士の元へと向かう。


 兵士は俺に気付いて緊張した面持ちを見せる。彼はギルドが雇って冒険者であり、当然ながら俺の顔を知っているからだ。


「俺と連れの二人で入る。受付の手続きを頼む」


「いえ、不要です! ギルドマスターより通達が出ていますので!」


 兵士は声高に叫ぶと鉄の扉を開く。一応は俺も元Aランクの冒険者。Eランクのアリスが同伴でも、顔パスで済む様に手配されていたらしい。


「えっ、ギルドカードは……?」


「ああ、不要だったらしいな」


 俺の返答にアリスはションボリする。そして、寂しそうにポーチへとカードをしまう。


 俺は苦笑を浮かべて門を潜る。すると、アリスは慌てて俺の後を追ってきた。


「……先程の方は凄く緊張されてましたね。グリム様が恐れられているからですか?」


「恐れられているのもあるが、俺がAランクと言うのも大きい。俺はこの街で最高位の冒険者だからな」


「えっ? 最高位の冒険者……?」


 アリスの驚く声がして、俺は背後に視線を向ける。アリスはポカンと口を開いていた。


「言っていなかったか? 俺はこの街の冒険者の中では一番強い。この街の冒険者で、俺に喧嘩を売る愚者は居ないだろう」


「そ、そんな……。凄い御方だったのですか……?」


 アリスの顔からサッと血の気が引く。何やら青い顔で、プルプルと体を震わせている。


 俺はふっと小さく笑う。そして、アリスの頭に手を伸ばし、白く柔らかな髪を撫でた。


「アリスが怯える必要は無い。お前は俺の庇護下にあるのだ。俺がお前を傷付ける事はないからな?」


「あっ……。そうでしたね。グリム様はとてもお優しい御方でした!」


 アリスは嬉しそうに笑みを浮かべる。そのキラキラした瞳からは、俺に対する信頼が感じられた。


 俺は別に優しい訳では無い。合理的に行動しているだけだ。ただ、それを口にするのも言い訳っぽくて躊躇われたが……。


 俺はアリスから視線を逸らすと、前方に見える階段を指さした。


「あそこに地下への階段が見えるな? あそこがダンジョンの入り口になっている」


「ダンジョンと言うのは、地下にある物なんですね!」


「いや、全てのダンジョンがそうでは無いぞ? この街は地下にあるがな」


 ダンジョンとは自然界に唐突に発生する場所。地下へと続く穴もあれば、山中に発生した洞窟もある。


 そして、その資源を求めて人が集まり、人がダンジョンを整備する。この街は一般人が迷い来ない様に壁で覆い、地下への階段も設置した。


「そして、ダンジョン毎に特徴が異なる。この街のダンジョンは『人型ダンジョン』と呼ばれているな。発生する魔物が人型ばかりだからだ」


「『人型ダンジョン』ですか……」


 アリスが硬い声を漏らす。魔物の話が出た事で、緊張で身を固くしていた。


「緊張する必要は無い。今のアリスなら、低層の魔物程度にやられはしない」


「そう、なんですか……?」


 アリスは戸惑った表情を浮かべるが、僅かに緊張が解けていた。俺の保証により、少しは安心したのだろう。


 そして、俺の言葉に嘘はない。アリスが魔道具を正しく使えば、既に低層の魔物を倒せる実力は備わっているのだから。


「それでは中に入るぞ。初めは俺の後ろを歩くと良い」


「はい、わかりました! 宜しくお願いします!」


 アリスの元気な返事に、俺は思わず笑みが零れる。多少の緊張は見て取れるが、それは程よい緊張感に思えた。


 油断されるのもの困るが、緊張し過ぎて動けなくても困る。この程度の緊張感ならば、アリスの資質を正しく計る事が出来そうである。


 俺はアリスから視線を外し、前方に向かって足を進める。背後に歩く気配を感じ、俺はそのまま階段を降り始めた。


 それは年期を感じさせるが、石造りの丈夫な階段。何度も歩いた地下への道を、俺は新たな仲間と共に歩む事に、不思議な高揚感を感じていた。

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