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闇組織(ヘンゼル視点)

 今日はお店に珍しいお客さんがやって来たっす。スキンヘッドに筋肉隆々の大男。それは何と、冒険者ギルドのギルドマスターっす。


 私は店を一時的に閉店し、彼を応接間へと招き入れたっす。私達はソファーに腰掛け、向かい合って笑みを浮かべる。


「アルベルトだ。こうやって直接話すのは初めてだったな?」


「はい、そうっすね。ご存じでしょうが、私はヘンゼルっす」


 私達は互いに簡単な挨拶を行う。合うのは初めてっすけど、互いに存在は意識してるっすからね。


 何せグリムさんはこの街の最重要人物。そのフォローを行う、数少ない同志でもあるっすから。


「それで、本日の要件は何っすかね? グリムさん絡みとは思うんすけど……」


「まあ、それしかねぇわな。正確に言うなら、ハインリヒの件となるがな……」


 ハインリヒさんは冒険者パーティー『黄金宝珠』のリーダー。グリムさんの元冒険者仲間っす。


 そして、先日グリムさんをパーティーから追放した張本人でもあるっす。それが原因で、周囲は色々と混乱する事になったんすけど……。


「この件は極秘事項だ。ただ、あんたには話すべきだと考え、俺が直々にやって来た。絶対に周囲には話さないでくれ」


「何やら物騒な用件みたいっすね……。他言無用については承知したっす」


 ギルドマスターが直々に出向くと言う事は、誰かに代わりを頼めない事情があるって事っすね。


 その事情まではわからないっすけど、ギルド内でも誰にも話せない内容なんだと思うっす。


「……闇組織ジャバウォックがハインリヒへ接触して来た。故郷の両親を人質に、グリムへの接触に協力しろとな」


「――なっ……?!」


 闇組織ジャバウォックの噂は知っているっす。商人や冒険者であれば、殆どの人が知っていると言っても過言じゃない存在っす。


 多くのスラム街に組織の人間が潜んでおり、フェアリーテイル王国で広く活動している犯罪組織。


 そのボスはDr.フェリシエと言う名の闇医者。闇医者と言っても治療は行わず、人体改造や非合法な薬物投与を行う狂人っす。


 絶対に関わってはいけない組織っす。そんな人物が、グリムさんへの接触を望んでいるって事なんすかね……。


「ハインリヒには俺の命令でグリムを追放させた。その上で奴の身をギルドで軟禁して、組織のメンバーが接触出来ない様にしている。今はそうやって時間を稼ぎつつ、ハインリヒの両親の保護にも動いてるって状況だ」


「急な話とは思ってたっすけど、そういう事情だったんすね……」


 ハインリヒさんは温厚な性格なので、おかしいとは思ってたんすよね。あんな一方的にグリムさんを追放する訳が無いって。


 ただ、グリムさんの無茶振りに、振り回されてる人でもあったっす。なので、思ってた以上にストレスが溜まってたのかなとも思ったんすけど……。


「組織の人間は秘密裏に調査している。領主様にも報告していて、調査にご協力も頂いてる。なので、奴等も動き辛い状況だとは思うんだが……」


 ギルドマスターが頭を抱えて大きく息を吐く。私が首を傾げていると、こめかみを押さえながら重々しく告げた。


「まさかグリムが、追放初日に奴隷を購入するとは……。それも街中であんなに、過保護な姿まで見せつけて……」


「あっ……」


 奴隷の購入を勧めたのは私っすね。あの時のグリムさんは、一人にしちゃ駄目だって思ったからっす。


 そして、私もちょっと想定外だったんすよ。グリムさんも初めの内は、奴隷を道具扱いすると思ってたっす。


 けれど、アリスちゃんだからなのか、想像を絶する過保護ぶりを発揮したっす。グリムさんを良く知る人程、信じられない程に……。


「アレは狙ってくれと言ってるみたいなもんだ。間違いなく組織に狙われてるだろうな。だから、今はギルドから警護の人員を選定中なんだが……」


 ギルドマスターは鋭い視線でこちらを見つめる。そして、重々しく警告して来た。


「あんたと妹さんも十分警戒してくれ。アリスって奴隷と仲良くしてるのを、組織の人間に見られている可能性が高い」


「……ちなみに、この事をグリムさんには?」


 正直、私とグレーテルでは警戒してもどうしようもない。店に閉じこもっていても、押し入られては抵抗も出来ないと思うんすよね。


 そうなると、グリムさんに事情を話すべきだと思うんすよ。今のグリムさんなら、アリスちゃんのついでも私達も守ってくれそうな気がするっすから。


 しかし、ギルドマスターは苦々し気に呻き、こちらに対して頭を下げて来た。


「すまんが今は話さないでくれ。グリムの行動が想定外過ぎて、説明の仕方を決めかねているんだ。その代わりと言っては何だが、あんたらの身辺警護にも人員を割くつもりだ」


「はぁ、そうっすか。とりあえずは承知したっす……」


 私とグレーテルの身も心配ではある。けれど、それ以上に早くグリムさんに話すべきだと思うんすけどね。


 時間を置けば置くだけ、グリムさんとの間に溝が深まる。グリムさんのギルドに対する信用が、墜ちるだけな気がするんすけど……。


 まあ、グリムさんの扱いは難しいっすからね。私はこれ以上何も言えず、渋々と状況を受け入れる事にしたっす。

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