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誤解

 初の戦闘訓練でアリスは疲労困憊といった状況だった。それもあって、今日の夕食はグレーテルが一人で用意した。


 アリスは申し訳無さそうにしてるが、グレーテルは明るく笑って手を振る。そんなやり取りの後に、グレーテルは手早く夕食を用意した。


 俺達は三人でテーブルを囲むが、今のアリスは元気が無かった。何が原因かと様子を探っていると、グレーテルが気まずそうな表情で尋ねて来た。


「ねえ、グリムさん。戦闘訓練ってあれが普通なの? その……。初心者のアリスちゃんをさ、コテンパンにしてたけど……」


「コテンパンにだと?」


 グレーテルはアリスに視線を向けている。その視線は何かを気遣っている様に見えた。


 俺には質問の意図が理解出来なかった。今日の戦闘訓練に何の問題があると言うのだろうか?


「今日は武器の扱いを教えると伝えた。そして、アリスはそれを学んだ。それだけの事だろう?」


「いやいや! アリスちゃん、まったく歯が立たなかったよね! あのゴーレムってのに、傷一つ付けられなかったじゃん!」


 グレーテルの言葉にアリスがビクリと反応する。その瞳には何故か涙が滲んでいた。


 俺はその反応に眉を顰める。そして、息を吐きながらグレーテルに応える。


「何故、武器の扱いを覚えるのに、相手を傷付ける必要がある? 逃げ回りながら、魔法を命中させられる様になった。それで今日の目的は達成出来たはずだが?」


「今日の目的は、達成出来た……?」


 グレーテルはポカンと口を開く。そして、隣のアリスも顔を上げ、大きく目を見開いていた。


 俺は二人の反応を不思議に思う。何か認識の相違でもあるのかと考え説明を続けた。


「あの武器を渡す際に、用途を牽制目的と伝えている。あの短剣は魔物を倒す為の物では無い。そんな事は少し考えればわかる事だろうが」


「わかる訳ないでしょ! だから、アリスちゃんが落ち込んでるんじゃない!」


「……アリスが落ち込んでいる?」


 俺がアリスに視線を向けると、彼女は気まずそうに視線を逸らす。何やら俺に対して、言い難い事でもあるのだろうか?


「アリスちゃんはね! グリムさんの役に立とうと頑張ってるのよ! だけど、ゴーレムに歯が立たなくて、自分が役に立てないんじゃないかって考えて、それで落ち込んでたのよ!」


「兎人族のアリスに、俺は攻撃能力を求めていない。逃げ回って足止めすれば、それだけで十分だ」


「だから、そう言う所なの! それをちゃんと口にして伝えてないでしょ! だから、アリスちゃんが悩んでしまって、落ち込んでしまうのよ!」


 グレーテルは何を言っている? 俺にアリスの考え何て理解出来る訳が無いだろう?


 俺とアリスでは頭の出来が違う。アリスには俺の考えが理解出来ないし、俺にはアリスの考えが理解出来ない。


 そんな事は当然であり、それを無くせと言うのは無理な話だ。それで誤解をして、落ち込んだとしても、それを俺の責任みたいに責めるのは筋違いと言うものだ。


 だが、俺が反論しようと口を開く前に、アリスがグレーテルの腕を掴んで叫び出した。


「お姉ちゃん、違うの! わたしが馬鹿だから悪いの! 責めるならわたしを責めて! グリム様の考えを理解出来ない、不出来なわたしが悪いんだって……!」


「ア、アリスちゃん……」


 ポロポロと涙を零すアリスに、グレーテルは戸惑った表情を浮かべる。そして、悲しそうに口を紡ぐと、ギュッとアリスを抱きしめた。


「ごめんね、アリスちゃん。大きな声で怒鳴って。感情的になった私が悪かったわ」


「ううん、悪いのはわたしです……。グリム様も、お姉ちゃんも悪くないんです……」


 アリスはグレーテルの胸の中で震えている。そんなアリスの頭を、グレーテルは優しく撫でていた。


 以前の俺であれば、こんな光景を冷めた目で見ていたはずだ。こんな茶番を見せつけるなと、舌打ちの一つもしていただろう。


 けれど、何故だか今の俺はそう出来なかった。胸に感じる小さな痛みが、いつもと違う言葉を発せさせた。


「……俺には他人の考えがわからない。何がわからないのかもわからない。だから、わからない事があれば聞け。アリスが悩んだり、落ち込む前に、わからないと俺に伝えろ」


「グリム、様……?」


 アリスが顔を上げ、俺に視線を向ける。その濡れた瞳を見て、何故だか俺の胸内は苦い気持ちで満たされる。


 そして、グレーテルが目を丸くして俺を見つめていた。その眼が信じられない物を見たと語っていた。俺は苦々しく思って席を立つ。


「アリスは疲れてるはずだ。今日は早めに休んで回復に務めろ。グレーテルも今日は早く帰れ」


「あ、うん……。そうする……」


 グレーテルは気の抜けた声で応じる。マジマジと見つめるその視線が、何故だか無性に居心地の悪さを感じさせた。


 俺は小さく舌打ちすると、食事もそこそこに部屋を出る。そして、気持ちを落ち着かせようと研究室へと足を向けた。


「何なのだ、これは……」


 らしくない、愚かな行動を取った自覚はある。だが、俺には自分の言動が理解出来なかった。


 今の俺は合理的では無い。不要な行動を取っている。けれど、その理由がまったくわからず、俺はその原因を考察し続けた……。

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