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魔道具(アリス視点)

 今日はグリム様がギルドへ呼ばれたので、わたしはグレーテルさんと共にヘンゼルさんのお店へとやって来ました。


 留守番の間暇になるので、お店の商品を説明してくれるそうです。グレーテルさんは何かと気を使ってくれる、優しいお姉さんなのです。


「う~ん、まずはそうだね。この辺りを見て貰おうかな?」


 グレーテルさんは商品棚からマグカップを取り出す。金属製のカップに木の取っ手。そして、底の部分に小さな魔石が埋め込まれています。


「これはグリムさんが作った商品なの。底の魔石に触れると、カップ内の水が瞬時に沸騰するわ」


「へえ、便利な魔道具ですね!」


 グリムさんの家では魔道具のコンロがある。なので、お湯を沸かすのは大変では無い。


 けれど、一般家庭には魔道具なんて無い。魔道具自体がとても高価な品物だからである。


「低層ダンジョンでは小型の魔石しか取れなくて、余り使い道は多くないのよ。それを何かに使えないかって、グリムさんが試しに作った魔道具の一つね。値段は銀貨五枚だから、購入する人はそこそこ多いのよ」


「銀貨五枚……」


 それはかなりの高額ではないでしょうか? 小さな村なら一か月分の生活費と教わりましたが……。


 しかし、グレーテルさんはカラカラと笑い、マグカップを棚にと戻しました。


「冒険者とか行商人に重宝されてるの。他の店なら値段は二倍で、大きさや重さもこのサイズじゃ無理だしね~。というよりも、グリムさんの魔道具には、全て魔晶石が使われてるからね♪」


「魔晶石ですか?」


 私は自分のブーツに視線を向ける。これにも小さな魔晶石が三つずつ付いています。


 そして、魔晶石は魔石を加工して、より多くの魔力を取り出せる物らしいです。その魔晶石を作るのは、グリム様に出来ないとも教えられました。


「魔晶石にすると、魔力効率がランクアップするんだって。つまり、大きさは小魔石なのに、使える魔力は中魔石並みって事なの。だから、本来よりも小さく、安く、大量に提供出来るって事ね♪」


「グリム様は凄いお方なんですね……」


 話を聞くと凄く便利だとわかる。そして、それが出来るなら、誰だって魔石を魔晶石に加工するだろう。


 だけど、それが出来るのはグリム様だけ。この魔晶石を欲しがる人は、とても多いのでは無いだろうか?


 私がそんな事を考えていると、それを察したのでしょう。カウンター内のヘイゼルさんが、微笑みながら私に教えてくれた。


「中サイズと大サイズの魔晶石は、全て領主様に納品してるんすよね。その上で、小サイズの魔晶石を扱った商品は、このお店で扱う雑貨だけっす。そういう条件に限定する事で、何とか他のギルドに睨まれずに済んでるんすよ」


「魔道具作りは錬金術師ギルド。商品の販売は商人ギルドが管理してるのよ。彼等からしたら兄さんのお店は煙たい存在なんだけどね。魔晶石を領主様に納品してるから、領主様の機嫌を損ねない様に見逃されてるって感じかな?」


「何となく、わかる気がします……」


 兎人族は森の恵みで生活する種族です。戦う力が弱いから、互いに助け合う事を良しとします。


 けれど、他の獣人族は縄張りを持っていて、その縄張りを荒らす者を徹底的に排除しようとします。


 ギルドと言うのは他種族と同じ。彼等にとってグリム様やヘンゼルさんは、縄張りを荒らす外敵と言う認識なのでしょう。


 けれど、森の支配者に相当する、領主様から気に入られている。だから、縄張り内での自由を許すしかないのだと思います。


「ああ、そうだ。気に入ったのがあれば、持って帰って良いっすよ。アリスちゃんも、自分用のマイ・カップとかあっても良いと思うんすよね」


「良いね、兄さん! なら、これにしましょう! 私がデザイン考えた、ハートのマグカップ! すっごく可愛いのに、冒険者や行商人にはウケが悪くってさ!」


 グレーテルさんはデザインの違うマグカップを並べる。ただ、いずれも共通しているのは、可愛いハート柄にピンクのデザインと言うこと。


 女性や子供なら喜ぶデザインだと思います。けれど、男の人が持つには恥ずかしいのではないでしょうか?


「ほらほら、どれが良い? これなんかは、四つ葉のクローバーも散りばめてあっておススメよ♪」


「そ、そうですね。それが良さそうですかね……?」


 四葉のクローバーは、兎人族でも幸運の象徴とされています。わたしのママも、わたしが幼かった頃に服へと刺繍を入れてくれました。


 それはとても幸せな思い出。今のわたしは幸せだけど、行方のわからない両親を思うと胸が痛みます……。


「――ありがとう御座います! わたしはこれにしたいと思います!」


「うん、アリスちゃんには良く似合ってるね! 凄く良いと思うよ!」


 両親の事は気になるけれど、今のわたしではどうにも出来ない。だってわたしは幸せだけど、それでもグリム様の奴隷でしかないのだから。


 わたしは胸の痛みに蓋をする。そして、この優しいお姉さんに対しては、幸せな笑みだけを見せようってそう決めました。

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