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リハビリ2

 アリスを購入して十日が経過した。俺は肉付きが良くなっているのを確認し、アリスの切れた耳を再生させた。すると、アリスはこれまで一番の大泣きをした。


 アリス曰く、兎人族にとって耳は特別な意味を持つそうだ。音の聞こえやすさの問題では無い。兎人族は耳の立派さが、結婚相手を選ぶ基準にもなるのだとか。


 耳は兎人族の尊厳そのもの。それ故なのだろうな。耳の再生して以降のアリスは、その距離感がおかしくなった……。


「グリム様~♪ 今日の特訓もお願いしますね~♪」


「ああ、わかっている。だから、少し離れてくれ……」


 俺達は揃って庭に出たのだが、アリスは俺に腕を絡めていた。


 恋人や夫婦ならば良く見る姿だ。けれど、奴隷とその主人で行う行為では無いはずだ。


 しかし、グレーテルはそれを面白がって、煽る様にニヤニヤ笑っている。


「別に良いじゃん? それでアリスちゃんはご機嫌になって、調子も上がってるんだしさ♪」


「はい、グレーテルさん! 今のアリスはグリム様の為なら、何だってやれると思います!」


 嬉々として告げるアリスに、グレーテルは声を上げて笑う。俺は溜息を吐いて、そっと腕を引き抜いた。


 アリスは残念そうな表情を浮かべたが、俺は無視して説明を始める。


「今のアリスは年齢相当の体力が戻っている。冒険者となるにはもう少し体を作る必要があるが、経過は良好と言えるだろう」


「はい! ありがとう御座います!」


 俺の言葉にニコニと笑みを浮かべるアリス。それはここまで面倒を見た事への礼なのだろう。


 そんな言葉は不要だが、何度言ってもアリスは止めない。なので俺は気にする事を止め、小さく頷き話を続ける。


「筋力トレーニングはこれまで通り続ける。それに合わせて、そろそろアリスは魔力の制御を覚えるべきだろうな」


「えっ? ちょっと待って、グリムさん。アリスちゃんって魔力を扱えるの?」


 驚きの声を上げるグレーテルに、アリスは不思議そうに首を傾げる。グレーテルの慌てる理由が、アリスにはわからないのだろう。


 魔力の適性は生まれながらに決まる。そして、人間ならな使える者が十人に一人程度。一握りの人間にのみ許される特権なのである。


 俺は眼鏡をクイッと押し上げる。そして、そのレンズを通してアリスの魔力を再確認する。


「アリスは風の魔力を内包している。恐らくは種族として風魔法への適性が高いのだろうな」


「あっ、はい! 兎人族の何人かは風魔法を使える人がいます。グリム様の仰る通りかと!」


 アリスは目を輝かせて俺を見つめる。それは俺の知識量に対する憧憬だろう。俺は再び頷き話を続けた。


「ただし、魔力量自体は多くないな。獣人族そのものが魔法使いに向く種族ではない。その魔力は身体強化で真価を発揮するものだろう」


「身体強化ですか? それはどうすれば良いんでしょうか?」


 アリスは不思議そうに小首を傾げる。確かに魔力は感覚を掴むまでが苦労するのだ。初めての者にはイメージしにくいだろう。


 俺はアリスの下腹部にそっと触れる。そして、メイド服の布地越しに俺の魔力を流し込んだ。


「俺の流した魔力を感じるだろう? それが純粋な魔力だ。そして、俺の包んだ魔力の中に、アリス自身の魔力も感じられるはずだ」


「んっ……! は、はい……。感じ、ます……」


 小さく頷くアリスだが、その顔は何故か赤く染まっている。更には小刻みに身を震わせて、もじもじと身をくねらせてもいた。


 俺はその反応に眉を寄せる。想定外の反応に戸惑いもあるが、俺はひとまず説明を続ける。


「魔力を感じたならば、それを足に向けるイメージを持て。まずはブーツの魔道具に魔力を流し、その効果を高める訓練からだな。それが出来る様になれば、次は魔道具無しでの魔力操作を教えてやろう」


「ふっ……ふっ……。す、すみません……。トイレに行かせて下さい! すぐに戻ります!」


 アリスはそう告げると、返事も待たずに家へ駆けこむ。その顔が余りに必死そうだったので、俺はポカンと口を開く。


 状況が理解出来ずに固まっていると、グレーテルがそっと身を寄せて来た。


「……ねえ、グリムさん。アリスちゃんにエッチな事をしてないでしょうね?」


「愚かな事を言うな。俺がそんな意味の無い事を……」


 だが、ふと俺は閃いた。俺が触れた箇所。アリスの魔力が集まる箇所が、少々悪かったかもと気付く。


「……もしかするとアリスは、魔力が活性化すると催すかもしれん」


「えっ、嘘でしょ? そんなことって有るの?」


 信じられないと目を丸するグレーテル。俺としても信じられない気持ちではある。


 それがアリスだからか、兎人族の種族特性かはわからない。ただ、場所を考えると、その可能性は否定できなかった。


「魔力の制御は要経過観察だな。もしそうなら、魔力は多用出来ん事になる」


「うん、そうだよね。もし事故が起きたら、乙女の尊厳に関わるものね……」


 乙女の尊厳は知らないが、ダンジョン内では不味いだろうな。ここぞと言う時の、切り札とする必要がありそうだ。


 まあ、兎人族の生態が一つ知れた。今の所はそれで良しと思う他ないな……。

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