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贈り物

 翌日も早朝からアリスは跳ねる。楽しくて仕方が無いらしく、ずっと笑顔で庭を跳ねている。


 その様子を観察していると、今日もグレーテルがやって来た。キッチンを借りると告げると、そそくさと朝食の準備に向かった。


 そして、アリスが疲れて跳ね終わる頃に、グレーテルが呼びに来る。俺達は揃って食卓に着いた。


「グリムさん、今日はどうする予定なの?」


「さて、どうするかな? 魔晶石は作れないが、他に何か作ってみるか……」


 俺はアリスに視線を向ける。彼女は幸せそうに朝食を頬張っている。兎人族だからか、人参が特に好物みたいだな。


 それはさて置き、アリスの体調が万全になるには時間が掛かる。それまでに、ダンジョンへ挑む準備が必要だろう。


 いくつかの装備をハインリヒ達に渡したままだ。わざわざ回収に向かうのも手間だし、作り直す方が手っ取り早い。


 いや、テントにしろ寝袋にしろ、アリスのサイズで調整が必要となる。いずれにしても、作る必要はあると言える。


「じゃあさ、一緒に街を歩かない? アリスちゃんに街の案内をしようと思って!」


「街の案内だと? どうして、俺が一緒に……」


 そこまで言って言葉を切る。そういえば昨日は、たった三十分程の距離で酔っ払いに絡まれた。


 比較的治安の良いアンデルセンの街だが、それでもやはり不安は残る。俺が側に居れば、如何なる問題にも対応可能だからな。


「仕方が無い。今日は俺も共に回ろう。アリスの体調確認も必要だしな」


「そうこなくっちゃ! やったね、アリスちゃん! 今日は観光だよ♪」


「え? え? か、観光ですか……?」


 グレーテルの言葉にアリスが驚いている。けれど、ソワソワした様子で、嬉しそうにしている。


 アリスもグレーテルに打ち解け、明るい表情を良く見せるようになった。今の精神状態であれば、アリスの完治は想定より早く済むかもしれないな。


「――っと、グレーテル。例の物は用意したか?」


「ああ、アレね! 勿論、用意してあるわよ♪」


 俺の問い掛けに、グレーテルが笑みを浮かべる。そして、可愛らしいデザインの、革の財布を取り出した。


 グレーテルはその財布をアリスの目の前に置く。ジャリッと重たい音を出す財布を前に、アリスがポカンと口を開いていた。


「例の酔っ払いから受け取った金貨で用意させた。その財布はアリスが使え」


「お釣りが銀貨と銅貨で入ってるわ。買い物の仕方はこの後教えるからね♪」


「は? え? あ、あの……。奴隷のわたしが財布やお金を……?」


 アリスは戸惑った様子で俺を見つめる。理解が追い付かないのか、嬉しそうな様子では無い。


「身の回りの必要な物はそれで揃えろ。一々、俺が金を払うのも面倒だ」


「アリスちゃんも女の子だからね! 色々と小物が必要になるものね♪」


 アリスは財布に手を伸ばす。そして、その重さを確かめ、恐ろしそうに手を放す。


「でも、やっぱり……。わたしは、奴隷だから……」


 アリスは俯いて悲しそうに呟く。奴隷の自分が持つべきでは無いと考えているのだろう。


「愚かだな。実に愚かだぞ、アリス」


「えっ……?」


 俺は財布を握ると、アリスに強引に押し付ける。そして、戸惑うアリスにキッパリと告げる。


「お前は俺の物だ。他の奴隷は関係が無い。黙って俺の言葉に従え」


「あっ……」


 アリスはハッとした表情を浮かべる。それは何かが腑に落ちたと言う顔つきだった。


 そして、アリスは嬉しそうに笑みを浮かべ、俺に対して頭を下げた。


「そうでした。私はグリム様の奴隷です。グリム様の命に従いますね」


「それで良い。お前の面倒は俺が見る。お前は俺の言葉に従えば良い」


 アリスはニコニコと笑みを浮かべる。納得を見せた彼女に、俺としても満足する。


 しかし、何故だかグレーテルが身悶えしてる。そして、意味の分からない事を呟く。


「そうなんだけど……。そうなんだけど、違うんだよなぁ……。ああ、凄くもどかしい……」


 スプーンを握り締め、唸り続けるグレーテル。彼女がおかしな行動を取るのはいつもの事か。俺は一旦、彼女の奇行を無視する事にした。


 代わりに、ローブの内ポケットからペンダントを取り出す。緑の魔晶石が埋め込まれたそれを、グレーテルの前にそっと置く。


「――へっ……?! これは何っ……? まさか、私への贈り物……!」


「ああ、そうだ。アリスが世話になっているからな。その駄賃だ」


 俺の言葉にグレーテルは複雑そうな表情を浮かべる。しかし、ペンダントを手に取ると、キラキラした目でその輝きを確かめていた。


 グレーテルも商人の妹だ。何だかんだと、その価値に目の色を変えていた。


「その魔道具の効果は二つ。一つは毒に反応して微かに輝く。そして、もう一つの効果は装着者への解毒作用だ」


「あっ、やっぱり魔道具か……。――って、毒の発見に解毒効果っ?! そんなの貴族が欲しがるやつじゃん!」


 グレーテルの言う通り、貴族ならば皆が欲しがるだろう。暗殺対策として優れた効果を発揮するからな。


「即死する程の毒は無理だが、並みの毒や食あたりは解毒可能だ。他にも麻痺や眠りの薬品に効果がある。まあ、使う気が無ければ売っても構わんがな」


「いや、売らないからね! グリムさんからの初めてのプレゼントなんだよ……?!」


 こいつは何を言っている? プレゼントではなく、労働の対価なのだが?


 まあ、売れば一財産にはなるが、俺としても身に着ける方がお勧めである。金で命は買えんからな。


 そう思いはしたが、それは何となく口にしない方が良い気がした。顔を合わせて笑い合うグレーテルとアリスの姿に、俺は不思議と悪い気がしなかったのだ。

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