表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/127

変化(グレーテル視点)

 日暮れ前に店へと戻った私は、自分と兄さんの分の夕食を用意する。グリムさんとアリスちゃんの分は作ったけれど、一緒に食べれなかったのは少し残念。


 とはいえ、兄さんとの情報共有も大切だからね。私は夕食の用意が出来ると、兄さんをダイニングに呼び出した。


「グレーテル、夕飯の用意ありがとうっす。両方の掛け持ちは大変じゃないっすか?」


「全然平気! アリスちゃんの姿を見てたら、それだけで元気が溢れてくるもの~♪」


 心配する兄さんに、私へ笑みを返す。これは嘘じゃなくて、本当に全然苦じゃないからね。


 兄さんもそれは察したのか、それ以上は何も言わない。食卓に着くと、早速とばかりに本題を切り出して来た。


「それで、グリムさんの様子はどうっすか?」


「マジヤバい。あんなグリムさん初めて見た」


 私の返事に兄さんは困った表情を浮かべる。どう判断したものか、悩んでいる様子だった。


 私はそんな兄さんにニヤリと笑って説明を続ける。


「ビックリするくらい、手厚くアリスちゃんを保護してるの! それにアリスちゃん関係だと、私が手助けを提案するとすぐに採用してくれるし!」


「あ~、やっぱりっすか。そうなる気はしてたんすよね~」


「えっ?! グリムさんがあんな風になるって予想してたの!」


 グリムさんは何でも出来る人だけど、だからなのか人を頼らない。勿論、取引ならばするんだけど、絶対に借りを作ろうとしないのだ。


 だから、私は朝からリュックを背負って向かったけれど、家に入れて貰えると思って無かった。兄さんの大丈夫と言う言葉で、半信半疑で向かったんだけどさ……。


「グリムさんにとって、アリスちゃんは奴隷じゃないんすよ。初めて飼うペットって感じなんすよね」


「え……? アリスちゃんがペットって……」


 確かに奴隷扱いじゃないなとは思った。けれど、ペット扱いってのはどうなの?


 今度は私が判断に困る。そんな私に兄さんは苦笑交じりに続ける。


「言いたい事はわかるっす。けど、グリムさんは他人に一切心を許さない人っすからね。今はそれでも良いかなって思うんすよ」


「う~ん、なるほど~。納得は出来ないけど、理解は出来るかな~」


 私も子供の頃に鳥を育てた事がある。巣から落ちた雛を、巣立つまでお世話したのだ。


 子供ながらに頑張ってお世話をした。凄く可愛がった記憶がある。その時の溺愛っぷりが、今のグリムさんと重なると感じるのだ。


 アリスちゃんをペット扱いは不満だけど、愛着を持つのは悪くない。それが将来的に、二人の溝にならなければ良いんだけどね……。


「まあ、当面は様子見っすね。後は良い方向に進むように、私達でフォローして行くだけっすよ」


「そうなんだよね~。グリムさんって不器用だから、少しは変わってくれると良いんだけどね~」


 私達は互いに夕食の手を進める。ただ、いつもより兄さんの表情が暗いので、私は気になって問い掛けた。


「そっちはどうなの? やっぱり、良く無い感じ?」


「表向きは騒ぎになってないっす。けど、裏と言うか、上の人達は大騒ぎっすね……」


 兄さんは苦々しく息を吐く。そして、苦笑交じりに状況を教えてくれる。


「冒険者ギルドでは『黄金宝珠』のハインリヒさんを説得してるっす。けれど、もうグリムさんとは組まないの一点張り。無理に組ませても、これまで通りに活動なんて出来ないっすからね。パーティー復帰は絶望的って感じっすよね」


「やっぱり無理か~。ハインリヒさん達も苦労してたからね~」


 王宮の御触れでグリムさんへの接触は禁止されている。けれど、それでもその力を欲する権力者は多くいるのだ。


 そんな人達の矢面に立たされていたのがハインリヒさん。重責だったのを知っているだけに、彼が悪いとも言い切れないんだよな……。


「かと言って、冒険者ギルドと錬金術師ギルドは面子を気にして体制を変えられないっす。後は領主様がどう介入するのか、方針が決まるのを待つだけって感じっすかね~」


「領主様も頭を抱えてそうだね~。どう転んでも利権関係で、綺麗に決着付かないだろうしさ」


 私は他人事だと思って軽く笑う。後々は笑ってられない状況になるかもだけど、今はくよくよしても仕方が無いからね。


 ただ、兄さんの表情は未だに暗いままだ。どうしたのかと見つめていると、兄さんは重い溜息と共に口を開いた。


「グリムさんから卸した魔晶石は、在庫が残り一か月って所っす。それが売り切れた後は、恐らくあの人が動き出すはずなんすよね……」


「あの人って誰の事を言ってるの?」


 憂鬱そうな表情だけど、誰の事を言っているのだろう? 領主様はそれより早く動くだろうし、その上の王様の事を言っているのだろうか?


 しかし、兄さんは心底嫌そうな表情で、長い溜息と共にこう告げた。


「……王立魔法研究所の所長っす。絶対これ幸いと、この街まで押し掛けるっす」


「うわぁ……。それは絶対に一波乱じゃすまないね……」


 今は王様の勅令で大人しくなったけど、あそこの所長はマジでヤバい。流石に直接乗り込んで来られると、この街全体に影響が及ぶだろう。


 私は兄さんの気苦労を理解した。そして、兄さんと同じく、長く重い溜息を吐くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ