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魔力の釣り合い

 朝食の時間になりダイニングルームへと向かう。そこではいつも通り、アリスが朝食を用意していた。


 少し遅れてペローナとティアマトもやって来る。今日はハーシーが眠っており、ティアマトが表に出ているみたいだった。


 俺達は共にテーブルを囲む。そして、テーブルに並べられた食事に手を付け始めた。ただ、そこでティアマトが怪訝そうに声を掛けて来る。


『グリム、何故抱かなかった?』


「うん? 何の話をしている?」


 ティアマトの問い掛けに俺は食事の手を止めた。彼女が何を言っているのか、俺にはまったく理解出来なかった。


 ペローナは気にせず食事を続けている。しかし、アリスは真っ赤な顔で、何やら慌てた様子を見せていた。


『これから死地へと向かうのだ。お前の子を残すべきだろう。どうして子作りをしなかった?』


「――ぶふっ……⁈」


 ティアマトの発言にペローナが噴き出した。俺はポカンと口を開いて、咳き込むペローナを呆然と眺める。


『アリスは覚悟が出来ていたぞ? まさか、この期に及んで日和ったか?』


「ま、待て! 何を言っている、ティアマト! お前は馬鹿なのか……⁈」


 こいつは何を言っている? アリスに覚悟が出来ていたって、何の覚悟が出来ていたと?


 俺はバッとアリスに視線を向ける。すると、彼女は両手で顔を覆い隠していた。ただ、その顔は真っ赤に染まっていた。


『馬鹿なのはお前だ。子を残す為に女を守る。それが生命と言うものだ。後悔を残さぬ様に、今こそ子を作るタイミングだろうが』


「いやっ、ちがっ……! 俺とアリスはそんな関係では無い! それにアリスはまだ子供だぞ!」


『アリスは子供ではない。既に子を作れる体へ成長している』


 ふっと蘇る過去の記憶。そういえばしばらく前に、アリスに初潮が来ていた。その時は狼狽えて、グレーテルに頼る事態となった。


 いや、確かに子を作れる体かもしれん。けれど、アリスの体は小さく、子供にしか見えない。そういう対象として見た事なんて……。


 俺が軽くパニックを起こしていると、そこでペローナが咳払いをする。そして、ティアマトへと真面目な顔で告げた。


「そもそもアリスは獣人だ。人間であるグリムとは子を作れまい」


『そんな事は無い。グリム程の魔力があれば釣り合いが取れる。どんな獣人とでも、子を作る事が可能だ』


 ……ん、獣人と子を作れる? 魔力の釣り合い?


 ティアマトは何を言っている? まさか、人間と亜人の間で子を作れないのは、魔力の強さと何か関係があるのか?


『そもそも、女王オズがグリムに執着するのは何故だと思っていた? この世でごく一握りの、自らと魔力の釣り合いが取れる相手。つまりは、子を残せる可能性がある相手だからだぞ?』


「待て、ティアマト……。同じエルフ族なら、子を成せるのでは……?」


『無理だ。女王の魔力が強過ぎる。受精は出来ても、胎の中で成長する前に死ぬ』


 あっさりと告げるティアマトの言葉。それは、この世界の常識を覆すものだった。


 人間と亜人では子を作れない。それは、別の種へと進化を遂げた結果と言うのが世の常識だった。


 しかし、ティアマトの言い分では受精は可能。その後の母体の腹の中で、成長する際に魔力の釣り合いが重要との事である。


 つまり、殆どの人間は魔力を持たない。その人間では亜人との子を望めない。


 しかし、魔法使いならば話が別。魔力の釣り合いさえ取れれば、無事に腹の子が育つと言う事になる。


『私の支配する世界では常識だったのだがな。魔力の強い子と弱い子では、子を作る事が出来ない。だから、つがいを選ぶ際の一番重要な要素だった。……そういえば、以前女王様にもこの話をしたら、目の色を変えていたな』


「「…………」」


 俺とペローナは無言で押し黙る。余りにもあっさり告げられた事実に、どう反応して良いかわからなかったからだ。


 しかし、ティアマトは平然と食事を再開しだす。そして、アリスは真っ赤な顔で顔を覆い続けている。もしや、アリスはこの話を聞かされていた……?


『……どうする、グリム? ダンジョン攻略はもう少し待つか? 子作りの為に』


「お、愚かな事を言うな! そんな理由で時間を空ける訳が無いだろうが……!」


 俺が慌てて否定すると、アリスがビクリと肩を震わせた。しかし、当のティアマトは特に反応無く、そのまま食事を続けていた。


 いや、凄い情報を貰ったのは確かだ。ただ、タイミングとか色々と問題があり過ぎる。これがティアマトと二人の時なら、もっと冷静にアレコレ考えられたのだろうが……。


「あっ……その……。いや……あう……」


 そして、何故だかペローナが挙動不審になっていた。先程から真っ赤な顔で何やら口をパクパクとさせている。


 以前に彼女からは、つがいや子には興味が無いと聞かされている。だから彼女には、余り関係が無い話だと思うのだがな……。


 まあ、こういった話自体に免疫が無いのだろう。俺も人の事は言えないが、きっと彼女程は狼狽えていないはずだ。


 普段は冷静なペローナがパニックを起こしている。その姿を見た事で、俺も少しだけ冷静さを取り戻す事が出来たみたいだった。

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