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夜這い?(アリス視点)

 今日は楽しい一日を過ごす事が出来ました。ハーシーさんと買い物をして、とても仲良くなれました。


 そして、共に夕食を食べて、お風呂にも一緒に入り、後はそれぞれの部屋で眠るだけです。


 わたしはすっかり馴染んだ自分のベッドに横たわります。こんな幸せな日々を過ごせるなんて、グリム様には感謝しかありません。


 何不自由なく生活出来て、嫌な事なんて一つも無い。時々自分が奴隷である事を、忘れてしまいそうになります。


 けれど、それは忘れてはならない事実。わたしの自由が許されるのは、グリム様の目が届く範囲内だけの事なのです。


 わたしは今日も自分にそう言い聞かせます。そして、心地よい眠気がやって来た所で、ふと異変に気付きます。



 ――ぎしっ……。



 わたしのベッドに誰かが潜り込んで来ました。そして、腕が伸びて来て、わたしの体をぎゅっと抱きしめたのです。


「えっ……? な、んで……?」


 突然の出来事に気が動転します。音も無く寝室に忍び寄り、わたしに気付かれずにベッドに潜り込む。そんな真似が出来る人は限られています。


 そして、今はペローナさんも屋敷に居ません。グレーテルさんを送り届けに行って、まだ戻っていないのです。



 ――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……!



 奴隷の中にはそういう奉仕を求められる事もあると聞きます。わたしには関係ないと思っていましたが、わたしにもその時が来たみたいです。


 勿論、相手がグリム様であれば、わたしとしても嫌ではありません。獣人でも構わないと言われるのであれば、決してやぶさかではありません。


 ただ、余りにも突然の事で、心の準備が出来ていないだけです。もっとしっかりと、体を洗っておけば良かったかも……。



 ――ぎゅっ……。



 わたしを抱きしめる腕に力が籠ります。そして、激しく鼓動する私の体は、背中に柔らかな弾力を感じるのです。


「……え? 柔らかな弾力?」


 何かがおかしい気がします。グリム様の体がこんなに柔らかなはずがありません。そう混乱するわたしの耳元に、そっと囁く声が届きました。


『すまない、アリス。今日はこの子と一緒に寝てくれ』


「ハーシーさん? ……いえ、ティアマトさんですか?」


『ああ、そうだ。今この子は眠り、私が表に出ている』


 その声を聞いて、わたしは安堵の息を漏らします。身を包む緊張感が、ゆっくり解けて行きます。


 少し残念な気持ちも有りますが、わたしにはまだ早いですからね。そう自分に言い聞かせて、気持ちをティアマトさんへと切り替えました。


「どうして、わたしのベッドに?」


『ベッドに忍び込むまでは、この子の意思だったのだ……』


 わたしの問い掛けに、ティアマトさんは歯切れ悪く答えます。ハーシーさんの意思らしいですが、その考えを話すべきか悩んでいるみたいでした。


 けれど、意を決した様にティアマトは説明を続けました。


『この子は六年前に家族を失っている。父と母と姉と妹。その面影を、ここの皆に重ねているらしい』


「えっ……?」


 ティアマトさんは十六歳。つまり、十歳の頃に家族を亡くしたと言う事みたいです。


 今は年齢で言えばグレーテルさんと同い年。けれど、その言動は十歳の子供みたいに幼いなと、わたしも感じていました。


 もしかすると、ハーシーさんは家族を失った六年前から、時が止まっているのかもしれません。


『迷惑を掛けているのは理解している。しかし、どうかこの子の我がままに付き合ってくれないか? この子がこんなに表に出るのは、未だかつて無かった事なのだ』


「そう、なんですか……?」


 わたしとハーシーさんは出会ってまだ二日です。けれど、始めはずっとティアマトさんが表に出ていました。


 しかし、グレーテルさん達と食卓を囲んでからは、ずっとハーシーさんが表に出ています。今日はこの時間まで、一度もティアマトさんが表に出ていませんでした。


『いつまでも私が守り続けるべきではない。この子はそろそろ、私から巣立つべきだ。その為にどうか、この子の助けになってくれないだろうか?』


 ハーシーさんは家族を失った悲しみから、立ち直れずにいるんだと思う。だから、ずっと自分の内側に引き籠っているのでしょう。


 それはとても悲しい事です。出来る事ならば、わたしも彼女の助けになりたい。わたしを救い上げてくれた、グリム様みたいにわたしも……。


「……はい、わかりました。わたしに出来る事があれば、協力させて貰います!」


『感謝する、アリス。代わりに私はお前も守ろう。今日からアリスも私の子だ』


「えっ……? ティアマトさんの子どもですか……?」


 わたしの母は生きているんですけどね。女王オズ様の元で保護されていて、いずれは合わせて貰えると聞いています。


 ただまあ、断るのも何となく悪い気がしてしまいました。わたしは何も告げず、ただコクリと小さく頷くに留めました。


 そんなわたしの体を、ぎゅっと彼女は抱きしめます。そうしたのがハーシーさんかティアマトさんかは、わかりませんでしたが。

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