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理想と現実(ペローナ視点)

 女性陣一同での買い物だが、当然ながら私は護衛も兼ねて同行する事になった。それはある意味で、当然の選択肢だと言える。


 最近はアリスの存在が認知され始め、街で兎人獣人を迫害する者はいない。むしろ、住人達はアリスと会えば、腫れ物に触れる様な接し方をしている。


 けれど、ハーシーの存在は別だ。彼女は鳥人族の獣人である上に、奴隷の証である鉄の首輪を付けていない。その状態で街を出歩くのは危険過ぎる。何が起きるか予想が付かないからだ。


 けれど、私が側に居れば誰も何も言う事は無い。この街の住人であれば、私の顔を知らない者は居ない。そして、この街の住人は大半が私に対して好意的な感情を抱いている。


 例え相手が神聖教会の者であっても、表立って私に何かを言う事は出来ない。そう考えての護衛役であったが、少しばかり予想と異なる状況になっている。


「ねえ、おじさん。これ見ても良~い?」


「あ、ああ……。好きに触って構わないよ……」


 アクセサリーの露店にハーシーが興味を示していた。そして、露天商の店主は目を丸くして、コクコクと頷いている。


 その視線はハーシーの胸に釘付けだった。自分の頭程もありそうなその双房に、欲情よりも驚きが勝った表情を浮かべていた。


「わぁ~! これ綺麗だね~!」


「あ、あぁ。俺の手作りなんだ」


 ハーシーが手に持つのは、貝殻を素材にした首飾り。少し離れてはいるが、海まで行けば簡単に手に入る素材だ。その為もあって、値段としてはそれ程高くはない。


 ハーシーはそれをキラキラした目で眺めていた。その様子に店主は満更でも無い表情となり、にこやかに彼女へ接客していた。


 獣人だからと差別をするでもない。むしろ、彼女に首輪が無い事にすら気付いていなさそうだった。


 まずその巨大な双房で度肝を抜かれ、その後に笑顔で毒気を抜かれたからだろう。この街に限らず人間で、こんな対応は滅多に見られるものではない。


「あんた、街の外の人だろ? この街には何しに来たんだい?」


「うんとね~。パパと一緒にダンジョン攻略をするためだよ~」


 ハーシーの回答に店主は目を見開く。しかし、ここは腐ってもダンジョンの街だ。すぐに理解を示した店主は、屈託のない笑みで受け答えを続ける。


「なるほどな。それなら、それなりには街に滞在する訳だ。――よし、そいつはお近づきの印にプレゼントしよう! 今日の所はお代はいらねぇよ!」


「ええっ、良いのぉ~!」


 店主の言葉に驚くハーシー。それを見守るグレーテルとアリスも同様に驚いていた。


 店主はからからと笑うと、サムズアップしてハーシーへとウインクする。


「代わりに一儲けしたら、また買い物に来てくれ! そん時は真珠のネックレスでも買ってくれ! パパにも宜しく伝えてくれよな!」


「うん、わかった~! パパに伝える~! ダンジョンを攻略したら、また買いに来るね~!」


 ニコニコと笑う店主。しかし、ハーシーの言うパパが、グリムの事とは夢にも思うまい。グリムが真珠のネックレスを買いに来たら、この店主はまた度肝を抜かれる事になるのだろうな。


 いや、それ以前に私達がダンジョンを攻略した時点で。或いは彼女が三獣士の一人と知った時点で腰を抜かすかもしれない。


 そんな事を考えて、私は一人で苦笑を浮かべる。すると、貝殻のネックレスを首にしたハーシーが、振り返って私に問い掛けて来た。


「ねえ、ペローナお姉ちゃん。似合ってるかな?」


 それは紐を通した、小さな貝殻のネックレス。巨大な胸にチョコンと乗る姿は、とてもアンバランスさを感じさせる。


 けれど、ハーシーのあどけない笑みと、その真っ白な貝殻はとても似合っていた。彼女の無垢な純白さを、引き立てている様に感じられた。


「似合っているぞ。凄く可愛いな」


「えへへ、本当に可愛いよね~♪」


 嬉しそうに喜ぶハーシー。そして、それをアリスとグレーテルにも見せつけ、二人からも可愛いと賞賛されていた。


 その姿を見つめる店主も、非常に満足そうだった。自分の作った商品が、ここまで喜ばれれば当然の反応なのだと思うがな。


「それじゃあ、おじさん! またね~!」


「おう、嬢ちゃん! 攻略頑張れよ~!」


 獣人だからと差別もせず、素直に応援する人間の店主。その姿に私は少し寂しく思う。もし私がこんなに陰気でなければ、同じ様に笑い合えたのだろうか?


 しかし、私は小さく首を振る。これはハーシーが特別なのだ。普通の獣人と人間では、こんな関係を築けるはずが無い。


 人間と獣人は体の構造が違い、番となって子も成せない。文化も違い過ぎて、完全に分かり合う事なんて出来ないのだ。


 その事を決して忘れてはならない。そうでなければ、間違った甘い夢を見てしまうのだから……。


「――ペローナお姉ちゃん? どうかしたの?」


 どうやら少しばかり、思考に耽ってしまったらしい。気付けばハーシーが、不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。


「いや、何でもない。次に行こうか?」


 私が微笑むと、ハーシーも笑みを見せる。そして、私の手を握って、大通りを再び歩き出す。


 私をお姉ちゃんと呼ぶ少女。彼女が作り出す幻想の家族。それが私に喜びと、一抹の寂しさを感じさせるのだった。

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