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雛鳥のいる生活

第四章からは週三(火・木・土)更新にペースを落としたいと思います。

まだまだ続きそうなので、息切れしないペースで続けたいと思います!

 俺達はアンデルセンのダンジョン攻略に、本腰を入れて取り組む事になった。それ自体は別に構わない。元々、冒険者パーティー『黄金宝珠』の時代から取り組んでいたからな。


 しかし、再結成した『グリモワール』は、始動にもう少し時間を要する予定であった。それが俺の予想を超えて、想定外の速さで状況が整ってしまっている。


 ハインリヒの入れ替わりで入ったアリス。彼女の育成に半年以上を要すると考えていたが、一月程度でA級相当の実力を身に付けてしまった。ダンジョンの影響らしく、そこには多少の不安も付きまとうが……。


 そして、魔女オズより借り受けた三獣士のハーシー。鳥人族である彼女は、その身に神『ティアマト』を宿している。彼女は実力で言えば、俺をも凌ぐ可能性がある。


 ただし、ハーシーの中身は幼き少女。本体が眠りについて、『ティアマト』が表に出ていない時が問題なのである……。


「ハーシーちゃん、あ~ん♪」


「あ~ん♪」


 今は昼食時であり、グレーテルがハーシーに餌付けをしている。グレーテルの差し出す匙を、ハーシーがパクリと口にしていた。


 長身で成人男性並みの身長を持つハーシー。恐らく年齢もグレーテルより上のはずだが、二人の関係性は母と娘のそれであった。


 そんな姿をアリスもニコニコと見守っている。一見するとほのぼのとした光景に、俺は思わず溜息を吐いてしまう。


「グリム……?」


「何も言うな……」


 共にテーブルを囲むペローナが、俺を気遣って声を掛ける。しかし、今は何も言う気になれなかった。


 正直、今の状況で愚痴を言っても意味が無い。何にもならないとわかっているのだ。


 だからこそ、俺は待ち続ける事しか出来なかった。本体のハーシーが眠り、ティアマトが表に出て来るその時を……。


「ハーシーさん、食後に街に行きませんか? グレーテルさんと買い物に行く予定なのですが」


「うん、行く~! ハーシーも付いて行く~♪」


 どうやら午後は、三人で買い物らしい。いや、護衛も兼ねてペローナも付いて行くだろう。女性陣だけでショッピングと言う訳だ。


 ただ、そうなると午後もティアマトの話を聞けそうに無いな。色々と確認したい事が多いのだが、それを行う機会が一向に訪れないのだ……。


 俺は内心で頭を抱え、黙々と食事を続ける。すると、グレーテルが何気なく俺に問い掛けて来た。


「グリムさんはどうする? 一緒に買い物に行く?」


「いや、俺はやる事がある。お前達だけで行くと良い」


 グレーテルはそれを聞いて笑顔で頷く。彼女も俺が来るとは考えておらず、どちらかと言うとハーシーを連れ出す許可を求めていたのだろう。


 そして、俺は仕方が無いと今日の所は諦める。元々、ハーシーのパーティー加入が無ければ、オリハルコンの研究をするつもりだったのだ。


 この素材の特性を知れば、より良い武具を用意出来る。そうすれば、よりダンジョン攻略を安全に行えるはずだ。


 そう、俺の計画は何も狂いはしていない。ただ、オリハルコン研究と並行して、合間にティアマトと話をするタスクが増えただけ。


 むしろ、当初の計画よりも状況は良い。戦力も情報も圧倒的に増えたのだ。面倒事が増えたと言う事実に、目を瞑りさえすれば、だが……。


「――パパは、来ないの?」


「「「――はっ……?」」」


 ハーシーの発した言葉に、全員が思わず固まってしまう。全員の視線が集まる中で、当のハーシーは不思議そうに首を傾げていた。


 微妙な空気の中で全員が息を飲む。そして、グレーテルが代表してハーシーへと問い掛けた。


「えっと、パパって言うのはグリムさんの事かな?」


「うん、そう。このお家の中で、パパなんでしょ?」


 今度は全員の視線が俺に集まる。皆、どう反応すべきか迷い、俺に判断を委ねている様子だった。


 そんな判断を委ねられても困る。どうすべきか俺が悩んでいると、ハーシーは楽しそうに話し続ける。


「アリスちゃんは妹で、ペローナさんがお姉ちゃん。それで、グレーテルさんがママだよね!」


「「「…………」」」


 ハーシーの説明に全員が満更でもない表情を浮かべる。そして、何やら期待する視線を俺に送って来る。


 まさか肯定しろとでも言うのか? 俺に家族ごっこをやれと言う気か?



 ――愚かだな。余りにも愚か過ぎる……。



 そう喉元まで出掛かった言葉を俺は飲み込む。ハーシーのキラキラした瞳に、何故だかそれを口にする事が出来なかった。


 俺は手にした匙をテーブルに置く。そして、すっと席を立った。


「……俺は研究室にいる。気を付けて出かけて来い」


 俺は回答を避けてダイニングを後にする。逃げた俺の背に視線を刺さるが、それを無視してその場を後にした。


「うん、気を付けるよ! パパもお仕事頑張ってね!」


 最後にハーシーからの、トドメの言葉が突き刺さる。俺は動揺から一瞬足を止めるが、それでも気を取り直して再び進む。前途多難なこの生活が、どうなることかと不安に溜息を吐きながら……。

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