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魔女の思惑(オズ視点)

 半日かけて空を飛び、余は王都の研究所へと戻って来た。魔法の扱いには随分と慣れたが、それでも使い続けるには集中力を要する。精神的な疲れはどうしても溜まってしまう。


 余は愛用しているアンティークの椅子に腰を掛ける。そして、ドアの側に控えるブリジットとジークへと視線を向けた。


 今の彼等はいつも通り、側に控えて余の命を待つのみ。そこには絶対の忠誠心が感じられた。


「……想像以上、と言って良いのだろうな?」


「はい、アリスの実力はかなりの物でした」


 余の呟きにジークが返事を返す。いつも律儀に答えるのは彼のみだ。それがわかっているので、彼は余の言葉は常に自分に向いていると考えている。


 そんな可愛い騎士の反応にクスリと笑う。しかし、余は首を振って彼の言葉を否定する。


「アリスだけではない。ペローナもそうだ。――しかし、それ以上にグリムだ」


 余の言葉にジークが顔を顰める。余がグリムに惚れ込んでいる事が、この騎士には面白く無いらしい。


 けれど、彼の隣でギシリと音が鳴る。それがブリジットの頷きと気付き、ジークはギョッと目を見開いていた。


「よもや、ブリジットの鎧に傷を付けるとはな。あのまま続けていれば、どうなっていた事やら……」


「傷を付けたと言っても、それは表面のメッキ部分のみです。彼に勝ち筋は無かったはずですが?」


 ジークはそれでも訝しそうに顔を歪める。私がグリムに惚れ込み過ぎて、認識が歪んでいないかと危惧しているのであろう。


 その忠誠心は可愛く思う。けれど、そうでは無い事は伝えておかねばならんな。


「ミスリルのメッキを瞬時に溶かした魔力。それ程の魔力を浴びた事で、オリハルコンの鎧が魔力を蓄積し始めておったのだ。あの戦いがもう数分も続けば、鎧にヒビが入り、ブリジットの魔力が漏れ出す危険があった」


「ブリジットの魔力が、ですか……?」


 余の言葉にジークは喉を鳴らす。ブリジットの膨大な魔力が漏れ出せば、どうなるのかを想像したのだろう。余としてもそれは想像するだけでゾッとするしな……。


「それにしばらく見ぬ内に、魔力の制御も格段に上達しておる。ダンジョンも攻略せずにじゃぞ? 奴はいずれ、余に匹敵する魔法使いに至るであろうな」


「…………」


 ジークはやはり面白くなさそうな顔になる。それはグリムへの嫉妬故に。余の寵愛への嫉妬もある。しかし、それ以上にグリムの才能への嫉妬だ。


 なにせ継承者の力は神の力に由来する。飛躍して超人へと至るが、その後に更なる成長は見込めない。それは力を継承した者なら誰でも同じである。


 しかし、グリムは神から受け継いだ力では無い。自ら磨いた力だけで、継承者と渡り合える力を持つ。しかも、未だに成長を続けているのだ。


 故に、グリムは可能性の塊。世界を滅びから救う鍵になり得ると考えている。それだけに、余はどうしてもグリムの動向が気になってしまうのだ。


 であるからこそ、余はハーシーをグリムに託した。余の手の内の半分を晒す事になるが、それでもあの協力者ティアマトと引き合わせる事にした。


 それがグリムの未来に役立つと信じて。それと同時に、アリスやハーシーにとっても、互いに良い影響を与え合うと信じて……。


「――そういえば、アリスの母親はどうするんですか?」


「ん? キャロルのことか?」


 ジークは静かに頷き余を見つめる。聞きたいのは、アリスの母親をグリムに引き渡すのかと言う事であろうな。


 何せキャロルは三年間もジークが鍛えたのだ。高い魔力を持っており、継承者になり得る可能性を考えての事であったが……。


「アリスが力を継承すれば、キャロルが戦う理由は無い。むしろ、アリスに恩を売る方が得策であろう」


「……そうですか。女王様がそう仰るのであれば」


 ジークは感情を押し殺しているが、残念さが滲み出ている。やはり、キャロルを手放す事を勿体ないと感じているらしかった。


 キャロルは余との約束を信じて訓練に参加し、誰よりもジークのしごきに耐え続けていた。そのガッツをジークはとても気に入っていたのだ。


 そして、キャロルとの約束と言うのは……。



 ――余の役に立てば、娘を探して合わせると言うもの。



 キャロルが頭角を現し、アリスを探し始めたのがつい先日。しかし、居場所を発見した時にはグリムが既に保護した直後であった。


 一時はグリムからアリスを買い取る事も検討したが、グリムの様子を見る限りは応じる事が無いであろう。


 ならば、約束を守るにはキャロルを手放すしか無い。グリムにキャロルを譲る事で、キャロルとアリスの親子と、グリムへ恩を売るのが得策と言う訳である。


 まあ、それもグリムがダンジョンを無事攻略し、その上でキャロルを引き取るならば、ではあるがな……。


「まあ何にせよ、しばらくは様子見であるな。グリムの行動を見守るとしよう」


 余はゆっくりと目を瞑る。そして、『遠見』の魔法を発動する。これで、グリムの行動をいつでも覗き見れると言う寸法である。


 ただ、一度ペローナに気付かれたので、夜には使えなくなってしまった。彼女は彼女で要注意人物だ。グリムと比べれば、警戒度は一段落ちはするがな。

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