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目覚め

 俺が問い掛け、ティアマトが答える。それを隣のペローナが黙って聞いている。


 その時間は一旦終わりとなった。アリスとグレーテルが夕飯を用意し、俺達の事を呼びに来たからである。


 消化不良の感は有るが、俺も頭を冷やす必要がありそうだ。何せ想定外の答えが多すぎ、俺としても何を優先すべきか判断し切れていないからだ。


 アリスの身を第一に案ずるべきか? ダンジョンと言う未知を解き明かすべきか? それとも、世界の危機へと備えるべきなのか?


 そんな事を考えながらダイニングへと向かうと、グレーテルが皆をテーブルへと案内していた。


「ハーシーさんは、こっちね! 食べられない物とか無い?」


『ああ、大丈夫だ。基本的に食べ物は人間と同じで問題ない』


 グレーテルに案内され、席へと座るティアマト。本体であるハーシーは、半眼でウトウトし続けている。


 そして、ハーシーの両隣にはアリスとグレーテルが座る。二人は来客を気遣いながら、俺へと視線を向けて来た。


「……これからダンジョンの本格攻略に取り組む。その間はハーシーもパーティーメンバーとして生活を共にする。困っている事があれば、手を貸してやってくれ」


「はい、わかりました!」


「うん、わかったよ♪」


 アリスとグレーテルは元気良く返事を返す。そして、ペローナも小さく頷いていた。


『ハーシーだ。これからしばらく世話になる』


 ティアマトはハーシーとして挨拶を行う。やはりと言うべきか、普段は自身の存在を伏せているのだろう。二重人格と言う訳にもいかないし、その方が無難な対応だとは思う。


「さて、まずは夕食だ。冷める前に食べてしまうぞ」


 俺の声掛けにより食事が始まる。普段は各々勝手に食べ始めるが、来客の存在があって様子を伺っていたのだろう。


 そして、アリスとグレーテルは食事を食べながらも、ハーシーの様子を伺っていた。当の彼女はウトウトと舟を漕ぎながらも、器用に羽の付いた手でナイフとフォークを使っていた。


 なお、鳥人族の手は人間と同じ構造をしている。魔物のハーピーは腕が完全に羽だが、鳥人族はあくまでも人間の体に鳥の特徴が付いたに過ぎないのである。


 そして、焼き魚を小さく切り分け、フォークで口元へと運ぶ。ハーシーは口をパカッと開けて、それを咀嚼し始めた。


「――おい……しい……」


 ハーシーは驚いた様に目を見開く。そして、目の前のお皿を凝視した後に、不思議そうに周囲の様子を確認し始めた。


 俺達は彼女の生声を初めて耳にし、驚きで手を止める。ただ、不思議そうに首を傾げる彼女に、俺は慌てて問い掛けた。


「もしや、目覚めたのか? 今の状況がわかるか?」


「うん……。なんとなく……。夢の中で見てたから……」


 俺はその言葉を聞きホッとする。どうやら、ハーシーへ始めから説明し直す必要は無いらしい。


 ただ、急に本体が覚醒した事には、俺も戸惑いを覚えている。事情を知るペローナだけでなく、アリスとグレーテルも戸惑った視線を俺へと向けていた。


「……詳しくは改めて話すが、今の彼女が本当のハーシーだ。先ほどまでは眠っていて、魔法の力で動いていた状態だったのだ」


「ええっ……? 寝ながらあんなハッキリ受け答えしてたの……?」


 グレーテルは半信半疑と言った様子で、俺へと戸惑いの視線を向けている。俺としても苦しいとは思うが、グレーテルに詳細を伝える訳にも行かないからな。


 何せ神の魂だとか、世界の滅びが関わる話だ。それは冒険者ですらない彼女には、まったく関係の無い世界であるべきなのだから……。


「ごはん……食べて良いの……?」


「あっ、うん! 大丈夫だよ!」


 ハーシーはオドオドしながら問い掛けて来る。それに慌ててグレーテルが返事を返した。


 すると、ハーシーは嬉しそうに焼き魚の塊にフォークを突き刺す。そして、切り分けもせずに大きな塊に齧りついた。


「おいしい……。おいしい……」


「あっ、ハーシーさん! そんな食べ方したら、お洋服が汚れちゃうよ!」


 ハーシーの口元はベトベトになっている。そして、着ている真っ白な服に、今にもソースが零れ落ちそうになっていた。


 グレーテルは慌てて彼女の手を取り、魚を皿へと戻す。そして、彼女に代って魚を切り分けると、その切り身を彼女の口元へとそっと差し出す。


「はい、こうやって切って食べてね? そうすればお洋服も汚れないでしょ?」


「うん……わかった……」


 ハーシーは嬉しそうに切り身を口にする。そして、食べ終わると口を開いて、再びグレーテルが食べさせてくれるのを待ち始めた。


 その様子にグレーテルは苦笑するが、それでも要求に応じて魚を食べさせる。そんな二人の隣でアリスはそっと動く。布巾を手に取り、彼女の口元を拭っていた。


「グリム、これは……?」


 ペローナは戸惑った視線を俺に向ける。俺は首を左右に振ると、ゆっくりと息を吐いた。


「俺の手には負えん……。こちらの世話は、アリスとグレーテルに任せるとしよう……」


 どうやら一時加入のメンバーは、一癖ある人物らしい。ダンジョン攻略の準備と並行して、ハーシーと言う人物を知る必要がありそうだった。

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