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ハーシーの能力

 その後、いくつかの質問の後にオズは去って行った。ハーシーと言う三獣士の一人を俺に預けてな。


 なお、オズはこの件は他言無用とケロッグ子爵を睨んで帰った。彼とてこんな話は荷が重すぎて、下手に誰にも話せはしないだろうが……。


 なお、オズがやって来た後に、ヘンゼルには店へ帰って貰っていた。その入れ替わりなのか、家に帰るとグレーテルが俺達をリビングで待っていた。


「グリムさん、大丈夫だった! 皆、酷い事されてない……?!」


「ああ、大丈夫だ。酷い事は、されて無いとは言えんが……」


 実力を見たいと闘技場を作り、俺とペローナは死闘を行う事になった。これは世間一般的には、酷い事をされたと言う気がするな。


 ただ、青い顔となるグレーテルを、アリスとペローナが必死に宥める。一先ずは落ち着いたグレーテルは、次に俺達の背後に視線を向けた。


「それで、そちらの方は……?」


「三獣士のハーシーだ。噂くらいは聞いた事があるだろ?」


「えっ……? 三獣士のって……。いや、有名人だけどさ……」


『よろしく。見知らぬ人』


 ハーシーは空気を振動させ、口も開かず挨拶を行う。魔法を使った挨拶に、グレーテルは目を白黒させていた。


 しかし、当の本人は眠そうにウトウトしている。グレーテルの様子にも余り関心が無さそうだった。


「二階の角部屋が空いている。アリス、軽く掃除を頼む」


「はい、わかりました! アリス、掃除に向かいます!」


 アリスは笑顔で頷くと、そのまま二階へと向かう。その手伝いをするつもりらしく、グレーテルもその背を追って行った。


 俺はハーシーに視線を向けて、リビングのソファーを指出す。意図を察して彼女が座ると、俺とペローナは向かいに座った。


「ダンジョン攻略に向かうに辺り、確認したい事がある。お前の能力を聞いても構わないか?」


『構わない。女王様からも許可を得ている』


 眠そうな表情と裏腹に、返事は実にハキハキしている。そのギャップが酷すぎて、本当に本人の返事かと疑いたくなるレベルだ。


 ただ、ハーシーが魔法を使っているのは、眼鏡を通して見えている。なので違和感は無視して、俺はハーシーへの質問を始める。


「では、使う魔法は風属性だとして、具体的には何が出来る?」


『空気を介した魔物の探知。音波による対象の破壊。空気自体の操作も出来るが、私は空気の振動を得意としている』


 空気による探知に空気の振動だと? だとすると、コウモリ系統の魔物に近い魔法か?


 アリスの得意とする速度系では無いと思ったが、これはまた変わった魔法を得意としている。


 その魔法には興味を惹かれるが、今はその好奇心を押し殺す。


「深層には俺とアリスとペローナが向かう。そこにお前も加わって貰う事になる。パーティーメンバーとの連携は出来そうか?」


『三名の能力は把握している。連携は可能だが基本的には不要。深層までの戦闘は、私一人で十分だ』


「「――はっ……?」」


 俺とペローナは揃って声を漏らす。想定外の回答に、俺達は言葉を失っていた。


『私は魔物を赦さない。全ての魔物は殺し尽くす。それは継承者なら誰でも同じ。それを為す力も当然ながら持ち合わせている』


 継承者とはダンジョンを攻略し、神から力を引き継いだ者だったはず。そして、目の前のハーシーもその中の一人とのことだ。


 なので、力があるのはわかる。そして、何らかの引き継いだ想い――『令呪』が刻まれている事も、オズからは説明されている。


 俺は『令呪』の存在を思い出し、恐る恐るハーシーへと問い掛けた。


「……お前に刻まれた『令呪』について聞いても良いか?」


『構わない。私の『令呪』は『子供達を守る』こと。その天敵たる魔物は存在自体を赦さない』


「子供達を守る……?」


 オズも『令呪』が刻まれていると言った。それは同胞たる『エルフ族を守る』という『令呪』だった。


 それは力を託した妖精王オベロンが、同胞たるエルフ族を守れなかった無念から来るものだ。それが力と共に託された想い――『令呪』なのである。


 ならば、ハーシーには力と想いの根源があるはず……。


「ハーシーに力を与えた神は、どういう存在なのだ? お前はどういう想いを託された?」


 俺の問い掛けに、ハーシーはしばし反応を返さなかった。先ほどまでは、ハキハキと返事を返していたのにだ。


 それが何を意味するのかと訝しんでいると、彼女はウトウトしながら淡々とした口調で答えた。


『力を与えた存在は、獣達の母ティアマト。魔物共に我が子を殺し尽くされた神である。――そして、グリムと会話している私でもある』


「――はっ……?」


 ハーシーは何と言った? 会話している私がティアマトと言ったのか?


 俺はその説明にまったく理解が追いつかなかった。しかし、彼女は変わらず淡々とした口調で告げる。


『肉体の持ち主たる娘は、普段は殆ど意識が眠っている。その間は、私がこの体を運用している』


「この体を運用している、だと……?」


 それは余りに想定外の答えであった。隣を見るとペローナも無の表情で俺を見つめていた。


 きっと俺も今は同じ表情なのだろう。理解が出来なさ過ぎると、感情も追いつかないらしい……。

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