表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/131

魔女の置き土産

 アリスをダンジョンの深奥に届けよ。そのオズからの指令に歯噛みしていると、彼女は表情を崩して柔らかな口調で告げた。


「とはいえ、余も敵対を望んではおらぬ。それに余もここに長居は出来ぬのでな。ダンジョン攻略までの間、代わりにハーシーを預けようと考えておる」


「なんだと……?」


 俺はオズの背後に控える、青髪の鳥人族――ハーシーに視線を向ける。当の本人は眠そうにウトウトしており、隣の獅子人ジークに睨まれていたが……。


 まあ、オズが長居出来ない理由は予想出来る。王立魔法研究所を長く空ける訳にいかないのだ。彼女の研究は他国からも狙われており、不在が続けば余計な混乱が起きるだろうしな。


「察しておると思うが、ハーシーも鳥人族のダンジョン攻略者じゃ。神からの力を継承済み故に、搦手無しではグリムでも勝てぬ実力を持っておる」


「チッ、忌々しい話だ……」


 ここに来てまた、ハーシーが俺よりも実力者だと告げられる。全力を出していないとは思っていたが、こうも格上の出現が続くと苛立ちを覚える。


 俺は獅子人のジークにも視線を向ける。彼はすまし顔で肩を竦め、俺を更に苛立たせる。


「ダンジョン最奥の宝物殿には守護者が居る。その試練内容によってはハーシーの力が必要になろう。万全を期す為に、連れて行くが良い」


「……待て、オズ。守護者と試練とは何の事だ?」


 当然の様に言われたが、俺はそんな話は聞いた事が無い。そもそも、公式に残っているダンジョン攻略者はオズのみ。


 そして、オズはその情報を外部へ公開していない。ダンジョン最奥に関する情報は、世間的にはブラックボックスとなっているはずである。


 オズはその虹色の瞳で俺を静かに見つめる。そして、何かを確かめた後に、俺へと改めて説明を始めた。


「神が力を託すに相応しいか、最後に行われる試練があるのだ。余の場合は問答のみであったが、ジークやハーシーの時には戦闘があった。恐らく、試練内容は神によって変わるのであろうな」


「なるほどな。それで宝物殿の守護者か……」


 確かに何があるかわからぬ以上、取れる対策は取っておくべきだ。それがオズの手先である三獣士であれ、安全を考慮するなら戦力に加えるべきなのだろう。


 しかし、俺は一抹の不安を覚える。今もハーシーは舟を漕ぎ、渋い顔のジークに脇を突かれている。本当に彼女が役立つのか、俺には確信が持てなかった。


 それならば、俺よりも確実に強いブリジット。もしくは、次点でジークの方が無難では無いかと思えたのだ。だが、オズは苦笑を浮かべてこう告げた。


「ジークは他に仕事があるし、ブリジットは事情があって貸し出せぬ。それに心配せずとも、ハーシーはダンジョン内では確実に役に立つ」


 にわかには信じがたいが、こう言われてはどうしようもない。俺の側からハーシー以外を貸して欲しいとは言えないだろう。


 ならば、半信半疑でもハーシーを借りておくべきだ。例えそれが監視の役目を負っていようと、俺達の身の安全を優先すべきだろうからな。


「わかった。ハーシーを借りておく」


「うむ、そうするが良い。余も確実な攻略を望んでおる」


 柔らかな口調で告げられ、何となくだがその言葉を信じる。そこには裏が無く、本当に無事にダンジョンを攻略して欲しいと思っているのだろう。


 まあ、攻略に失敗すればスタンピートが発生するかもしれない。そういうデメリットを考えれば、邪魔をするよりも応援するのが自然だとは思うがな。


 ただ、俺はふとオズの視線が気になった。先程からその虹色の瞳は、何かを探る様に俺に向けられている気がしたのだ。


「オズ、何だ? 何か気になる事があるのか?」


 俺が問い掛けると、オズは少し迷った表情を見せる。いつも自由奔放な彼女にしては、こういう態度は珍しい様に思える。


 彼女は言うかどうか迷った末に、俺に対してこう問いかけて来た。


「グリムよ。お主は宝物殿へ入った事は無いか?」


「いいや、無いが? どうしてそんな事を聞く?」


 オズは俺の返事を聞き、何かに迷っている様子だった。何故だか彼女からすると、俺は宝物殿へと入った事があると考えていたみたいだ。


 そう考えた理由が何かと答えを待つと、オズは小さく息を吐いてこう告げた。


「グリムの中からは、古代遺物アーティファクトに似た気配を感じるのだ。似てはおるが、余達の古代遺物アーティファクトとは明らかに別物。その気配が何なのか、余にも見当が付かぬ……」


古代遺物アーティファクトに似た何かだと?」


 古代遺物アーティファクトとは、ダンジョンの最奥で手に入ると噂される秘宝の事だ。それが手に入れば、自らの望みが叶うと言われている。


 しかし、俺はそんな物を手に入れた事は無い。当然ながら、ダンジョンの最奥へと至った事もありはしない。


 何の事かまったく心当たりの無い俺に、オズは苦笑を浮かべて首を振った。


「本当に心当たりが無さそうじゃな。ならば考えても仕方あるまい。今の問いは忘れるが良い」


「……そうか」


 気にならないと言えば噓になる。しかし、オズに聞いてもこれ以上の情報は得られないだろう。


 俺は頷いてこの場では忘れる事にする。ただし、頭の片隅にはしっかりと今の言葉を刻んでおいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ