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ダンジョンとは?

 オズ曰く、アリスをダンジョンの最奥へ導く必要があるそうだ。そうしなければ、ダンジョンが世界に魔物を解き放つと言う。


 他の誰かであれば与太話と鼻で笑う所である。しかし、千年の時を生き、ダンジョン攻略を成したオズであれば、それは無視できない話である。


 しかし、それでも俺は素直にその話を鵜呑みにも出来なかった。


「オズ、そもそもダンジョンとは何だ? 何故、ダンジョンがアリスを選ぶ?」


 オズは俺の問いに静かに頷く。そして、褒美に何でも答えると告げた通り、俺の問いに答え始める。


「ダンジョンとは、こことは異なる世界。既に終わった星の記憶。そして、その最奥には神の魂が眠っている。自らの力を託すに相応しい者を待ち望んでおる」


「異なる世界? 神の魂?」


 オズの唐突な説明に俺の頭は混乱する。誰かの空想した小説の様な話に、それが現実の話とは思えなかった。


「余は『妖精王オベロン』より力と想いを託された。『エルフ族を守れ』。その令呪により、余は未来永劫エルフ族の守護者である事を定められておる」


「令呪だと? お前は何の話をしているんだ?」


 オズは俺の問いに答えない。まだ、先の説明が終わっていないらしかった。オズは淡々と説明を続けていた。


「神々は死してなお後悔を残し、その無念を晴らそうとしておる。『妖精王オベロン』はエルフ族の復活を望んだ。そして、この世界にエルフ族を誕生させた。それと同時にその守護者を欲しておった。――そして、余は『妖精王オベロン』に見初められ、人間から『エルフの女王』へと生まれ変わらせられた」


「――なっ……?!」


 オズが元は人間だと? 『妖精王オベロン』とやらに、『エルフの女王』へと変えられた?


 その話が本当ならばゾッとする話だ。人を別の種族に作り替える等、それはまさしく神の御業と言わざるを得ない。


「余はその力を受け入れる事を選んだ。元々、余は姫と呼ばれる地位にあり、国が滅んで誰も守れなかった。もし、それを守れる力があったならば、『妖精王オベロン』の令呪も受け入れられると思えたのだ。そういう人間であったからこそ、『妖精王オベロン』も余を選んだのであろうな」


「ダンジョンに選ばれるとは、そういう意味なのか……?」


 今度は俺の問いに、オズが静かに頷いた。そして、背後の三獣士に視線を送り、こう続けた。


「ダンジョンの数だけ神の無念がある。そして、継承者を待っておる。より詳細に言うならば、亜人の数だけ神が居る、その亜人を生み出し神が、その中から継承者が誕生する事を待っておるのだ」


「神が亜人を生み出した? 待て、オズ。ならば、何故アリスがアンデルセンのダンジョンに選ばれる?」


 アンデルセンのダンジョンは人間の街だ。兎人族は街より北の森に住む。そこはフェアリーテイル王国内ですらなく、帝国領に位置する場所のはずだ。


 オズはアリスへと視線を向ける。そして、悲しそうな顔でそっと呟いた。


「ダンジョンが発見され、人間に追われた為よ。元々、この地の原住民こそが兎人族であったのじゃ」


「ダンジョンが発見され、兎人族が追い出された……?」


 ダンジョンが発見されると、そこに人間の街が出来る。しかし、そこに元々誰かが住んでいた等と言う記録は残らない。


 その領地を所有する領主が、そこに街を作ると決める。そして、その街に人を呼び込んで住まわせるだけなのだ。


 俺は隣に腰かけるケロッグ子爵に視線を向ける。彼は青い顔で冷や汗を流しながら、俺へと小さく頷き返した。


「継承者を待ち望む神が、生み出した眷属の帰還を知った。そして、その者に継承に値する資格を見出した。ならばもう、その神は傍観したりはしまい。何が何でもアリスを自らの元へと呼び寄せようとするであろうな」


「「「…………」」」


 俺とケロッグ子爵。そして、背後のアリスとペローナも沈黙する。


 余りの情報量に処理が追いつかないのもある。しかし、それぞれに複雑な想いが過ったのもあった。


 そんな俺達に対して、オズは小さく息を吐く。そして、淡々とこう告げた。


「余だけでなく、ジークもハーシーも同族を守る事を望んでおる。逆に言えば、それさえ守られるなら世に混乱を巻き起こす気は無い。それを為す為の地位も得ておるし、これまで通りに暮らせればそれで良いのじゃ」


 確かにオズのお陰でエルフ族は特別待遇を受けている。獅子人族や鳥人族も、三獣士を恐れて表立った迫害は受けていないそうだ。


 つまり、彼等からすれば現状は令呪に背かない範囲で、平穏を享受出来ていると言えるのだろう。


「――しかし、全ての神が同じ考えかはわからぬ。それ故に、余はアリスの継承を見届ける必要がある。アリスがどの様な令呪を刻まれるかを、余は知らねばならぬのだ」


 オズは鋭い視線をアリスへと向ける。その圧に飲まれるアリスを前に、彼女はキッパリとこう告げた。


「我等と共存出来るならば良し。しかし、それが出来ぬ場合は――わかるであろう?」


 それはつまり、生存を賭けた戦いが始まると言う意味だ。オズと三獣士による連合軍。それに対するのはアリスと彼女を守る俺にペローナ。


 先程の手合わせで実力の差はハッキリしている。少なくともオズとブリジット相手に、俺達では手も足も出ないであろう。


 俺は胸内に苦い想いを滲ませながら、自らの無力さに歯噛みする事しか出来なかった。

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