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魔女の目的

 闘技場から領主の館へと戻った俺達。屋敷の主であるケロッグ子爵は、ずっと青い顔で俯いている。それ程までに、俺の戦いが衝撃的だったのだろう。


 何せ一個小隊が吹き飛ぶ魔法を、雨あられと使い続けたのだ。これまでは半信半疑であっただろうが、今では俺が国を滅ぼせると言う噂を信じざるを得まい。


 無論、オズがそれを防ぐ立場に立てば、フェアリーテイル王国が滅びはしない。そして、オズはその為に王立魔法研究所の所長と言う地位と、国王に次ぐ権威を与えられているのだ。


 ……最もこの魔女が、本当に人間の為に動くは疑問だがな。こいつは人の都合等はお構いなしに、無法を繰り返す奴なのだから。


「さて、それでは褒美を取らせねばな。何なりと余に問うが良い」


 俺とケロッグ子爵は並んでソファーに腰かける。そして、その向かいでオズは、横柄な態度でふんぞり返っている。


 なお、アリスとペローナは俺の背後に控えている。オズの背後はには三獣士が控えていた。


 オズの視線は俺に向いている。そして、俺以外の誰もオズに問い掛けたりはしないだろう。俺は一先ず最も気になっていた事から始める事にした。


「そもそも、今回の目的は何だ? どうして貴様が直接出向いた?」


 それは初めから疑問に思っていた事だ。これまで二年程は沈黙を守っていた。俺の前に現れたりはしなかったのだ。


 そして、立場から言えばオズは俺を呼び出す事も出来る。素直に応じないにしても、最終的には従わざるを得なかっただろう。


 にも拘らず、三獣士まで引き連れてやって来た。それが俺には何よりも不可解だった。


「ふむ、その疑問は至極当然であろう。それに答える前に、まず皆は『超越者』を知っておるか?」


「……その種族の限界を超えた者の事か? ペローナは知っているな。アリスにも軽くは話したか?」


 俺が背後に視線をやると、二人は小さく頷いた。それを見たオズは満足そうに頷く。そして、すっと目を細めて、低い声でこう囁いた。


「余は超越者の出現を待っておる。正確に言えば、その資格有る者を補佐したいと考えておるのだ。その為に、強い魔力を持つ者と接触を繰り返しておる」


「……俺やペローナに付き纏うのもその一環か?」


 俺の問いにオズは苦笑交じりに頷く。そして、俺の無礼な物言いに獅子人のジークが顔を顰めていた。主の前と言う事もあり、口出しは控えたみたいだがな。


「そして、今回の目的はそちらのアリスよ。彼女が『超越者』へと至る者かを見定めに来た」


「何だと? アリスが『超越者』へ至る……?」


 その言葉に俺は心臓を掴まれる思いがした。それは意外だったからではない。俺自身が疑念を抱いていたからだ。


 アリスの成長は尋常では無く、兎人族のポテンシャルを大きく上回っている。『超越者』である可能性は、俺自身も疑っていたのだ。


「そして、先程の戦いを見て確信した。アリスは『超越者』へと至り掛けている。いや、既に半分程は踏み込んでおる。もう引き返せぬ所まで来ておるな」


「……引き返せない所まで? それはどういう意味だ?」


 オズの言い分では、引き返せる分岐点があった様に受け取れる。そして、その分岐点をアリスが既に超えていると。


 オズは真剣な眼差しで俺を見つめる。そして、チラリとアリスを見た後に俺へと告げる。


「『超越者』とはダンジョンに選ばれた者。そして、古代遺物(アーティファクト)を受け継いだ者の事を言う。アリスは既にダンジョンに選ばれておる。後は古代遺物アーティファクトを受け継ぐのを待つだけと言う状況じゃな」


「「「――っ……?!」」」


 俺と領主は息を飲む。背後からはアリスとペローナの動揺する気配も感じられた。


 しかし、三獣士には何ら動揺が見られない。彼等にとってそれは、予定通りの事実だったのだろう。


「そして、継承を終えずにあれだけの能力じゃ。恐らくは相当な力を与えられるであろう。『超越者』へと至った暁には、余に匹敵する実力を得る可能性すらある」


「オズに匹敵、だと……?」


 俺の知る限りオズの実力は常軌を逸している。俺自身が国を亡ぼす程の力を持つが、それでもオズにはどうやっても勝てないと思わせる程なのだ。


 そのオズに匹敵する力をアリスが持つ。それは流石に俺も想定していなかった。それ程の大きな力となると、無暗に与えて良い物とは思えないが……。


「――ダンジョンと資格者は惹かれ合う。周囲が止めようとも、必ず資格者は深奥へと向かうであろう」


「――なっ……」


 オズは俺の考えを見透かしている。そして、俺では止められないと、淡々と事実を語っていた。


 そして、俺は深層でのアリスの変化を思い出す。何が何でも深層に向かいたいと、懇願していたアリスの姿を……。


「そして、無理に止めようとすれば最悪の事態を招く。ダンジョンはスタンピートを起こし、ダンジョン内の魔物がこの世界に溢れる事になる」


「なん、だと……?」


 ダンジョンの外にも魔物は居るが、それは低層にいるゴブリン程度の弱い存在のみ。中層以上の実力ある冒険者しか倒せない魔物は、ダンジョンの中にしか存在しない。


 だが、もし深層に居る魔物が世に出ればどうなる? 下手をすれば数体の魔物によって、国が亡びる事態になってもおかしくはない。


 それはオズの言う通り最悪の事態だ。この世界の在り方が、根本から大きく変わってしまいかねない。


「故に、グリムよ。ダンジョンを急ぎ攻略せよ。アリスを深奥へと導いてやるのだ」


 有無を言わせぬ物言いに、俺は思わず歯噛みする。これは最早命令に近い。しかし、俺にはそれを断る事が出来なかった。


 俺自身の生活と、アリス達の平穏を守る為。どうやら俺は、ダンジョン攻略に本腰を入れなければならないらしい。

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