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グリムの本気

 銀鎧に身を包むブリジット。その鎧は恐らくミスリル製だろう。魔道具によく用いられる素材で、魔力の伝導率が兎に角良いからな。


 そして、その手に持つロッドも同じだ。俺のロッドも奴同様に、魔力の制御に特化させている。魔力をロス無く扱うには、やはりミスリルは優れた素材なのだ。


 俺は左右に持った短いロッドを同時に振るう。右のロッドは空気圧縮による圧殺。左のロッドは地面から延びる無数の石槍。これを同時に捌くのは至難の業だろう。


 だが、ブリジットは純魔力によるバリアで魔法の威力を軽減。空間圧殺と石槍による攻撃を鎧で受けながら、俺に向かって鋭く踏み込んで来た。


「ふんっ、接近戦なら勝てると踏んだか?」


 俺は身体強化の魔法を掛け、ブリジット同速で距離を維持する。ミドルレンジを維持しながら、俺は雷魔法と氷魔法の時間差で魔法を放つ。


「――っ……?!」


 雷魔法はバリアによって防がれる。しかし、氷魔法の直撃によりブリジットに動揺が見られた。


 銀鎧の能力故かその鎧に傷は無い。けれど、衝撃によるダメージと、相殺による魔力減少は起きているはずだ。


 いずれは肉体が限界を迎えるか、魔道具がその機能を停止するはず。俺はそれを待つだけの、体力も魔力も十分に持ち合わせている。


「さあ、どうするつもりだっ!」


 炎、雷、氷、風、岩……。いずれも異なる魔法で畳みかけ、相手に対処する余裕を与えたりはしない。


 それと同時に、距離を詰めさせたりもしない。接近戦が出来なくは無いが、想定外の奥の手が有ると厄介だ。この距離が攻撃も防御も、俺にとって最も有利な間合いだろう。


 魔法の腕が同等ならば、二つの魔法を扱える俺に分がある。オズ程の力量差が無ければ、どんな相手でも一対一で俺に勝つなど不可能だ。


 それは目の前の三獣士とて同じ。そう考えていた俺は、ふとブリジットの異変に気付く。



 ――しゅうぅぅぅ……。



 魔道具である銀鎧の暴走だろうか? 煙を発しながら、その色が錆びたような鈍い色へと変わり始める。


 初めは俺の魔法を受けすぎて、機能が落ち始めたのかと思った。しかし、それにしては変わらず魔法を防ぎ続けているのだが……。



 ――ゾクリ……。



「――っ……?!」


 俺は背中に悪寒が走り、思わずブリジットから距離を取る。重力魔法で足止めしつつ、風魔法での転倒も狙う。


 しかし、ブリジットは気にせず歩を進める。まるで俺の魔法など意に介していないかの如く。


「何だ、これは……。この俺が、威圧されている……?!」


 闘技場に魔力が満ちていた。その魔力は俺を遥かに凌ぎ、王国の魔女にも迫りうるものだった。


 見れば銀鎧はメッキが剥げ、その下から黄金の輝きを見せていた。その剥がれた隙間から、その膨大な魔力が溢れ出しているみたいだった。


「チッ、オズめ……。こんな化け物を隠していたか……」


 流石にこれに勝つのは難しい。魔力量に差があり過ぎて、俺の魔法は全て半減させられる。全力で魔法を放っても、どこまでダメージが通るかわからなくなった。


 それどころか、俺は相手の魔法を防げない可能性が高い。例え魔法で防御をしようとも、防御もろとも吹き飛ばされる可能性が高いのだ。


 まともに戦っては勝ち目がない。さてどうするかと俺が悩んでいると、闘技場に声が響き渡った。


「――そこまでだ! この勝負を停止せよ!」


 声の主はオズだった。その声でブリジットは足を止め、ゆっくりと主の方へと振り向いた。


 すると、オズはふわりと魔法で浮かび、ブリジットの側へと降り立つ。そして、同じく降り立ったハーシーから、銀のインゴットを受け取った。


「動くなよ、ブリジット。その鎧をすぐに修理するのでな」


 ブリジットは主の言葉に小さく頷く。そして、棒立ちになりながら、主の魔法を受け入れる。


 オズは魔力でミスリルを加工し、ブリジットの鎧にメッキ掛けを行う。薄く引き伸ばされたソレが身を包むと、ブリジットの鎧は元の銀鎧へと戻った。


 その作業を静かに見守っていた俺に対して、オズは振り返って真剣な顔で告げた。


「流石はグリムだ。これ程の成長を遂げておるとはな」


「それは皮肉か? 俺では勝てる見込みも無かったぞ」


 そう、あのまま続けていれば、俺は何も出来ずに負けていただろう。ブリジットの持つ魔力量は、それ程までに圧倒的だったのだ。


 しかし、オズは静かに首を振る。そして、鋭い視線を俺へと投げる。


「ブリジットの制御を解く等、ジークやハーシーにも出来ぬ。グリムは間違いなく、この国で最高の魔法使いよ。――私とブリジットに次いで、ではあるがな?」


 オズの言葉に俺はムッとする。今までの俺はオズ以外に負けるはずが無いと思っていた。


 しかし、先程の魔力を見れば何も言い返せない。俺は自身が勝てない相手が、オズ以外にも居る事を認めざるを得なかったのだ。


「くふふ、それでは領主の館に戻るとするか。聞きたい事があれば、何でも答えてやるぞ?」


「……ほう、何でもか?」


 オズに聞きたい事ならば山ほどある。これまでは煙に巻かれて、まともな回答は期待出来なかったが。


 しかし、今回は何でも答えると明言した。いつものふざけた態度では無いので、少しは期待が持てそうだった。


 俺は内心でほくそ笑む。魔女に翻弄されるのは業腹だったが、今回ばかりは得る物が有りそうだからな。

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