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銀の鎧のブリジット

 闘技場に降り立った俺は、銀鎧を相手に対峙する。相手の名はブリジット。三獣士の一人ではあるが、その情報はあまり出回っていない。


 常に王国の魔女の背後に控え、他の二人の様に任務を与えられる事が無い。唯一オズの身辺警護を任された、王国最強の戦士と噂される程度か……。


 その真偽の程はわからない。けれど、得体が知れないのだけは確かだ。奴はフルプレートアーマーで全身を包み、その素肌を一切見せていない。


 更には特殊な鎧の効果か、魔力を見る事すら出来ない。三獣士の一人である以上、魔力が無いとは考えられないのだがな。


「さて、どんな手を見せてくれるのやら……」


 重量のあるフルプレートを着込む以上、真っ先に浮かぶのは肉弾戦タイプ。しかし、あれが魔道具である場合は、その常識が通じない可能性が高い。


 情報が少ない以上、あらゆる可能性を考慮するべきだろう。俺は慎重にブリジットの挙動を注視する。


 すると、ブリジットは腰から棒状の何かを引き抜いた。奴はその棒を引き伸ばすと、それは一メートル程の短杖となる。


「……ロッドだと? そのなりで魔法が主体か?」


 棒術と言う可能性もあるが、それならもっと長さが必要だ。体術がメインで補助武器の可能性もあるが、それは一部の警備兵が捕縛術だ。一般的な主武器としては適していない。


 そして、ロッドの主な使い方は魔法の補助だ。特定の魔法を刻む事で、魔法の発動や威力を高める用途が一般的であるが……。



 ――チカッ……。



「――っ……?!」


 ロッドの先端が黄色く光る。俺は咄嗟に土魔法を展開し、目の前に岩の壁を隆起させる。



 ――ゴガッ……! ゴオォォォン……!!!



「くっ……?!」


 しかし、咄嗟の発動だったので強度が足りていない。俺は砕け散る石片を浴びながら、地面に転がり魔法の余波から逃れる。


 黄色の魔力は雷属性だ。希少な魔力の色だが、使いこなせればかなりの脅威。雷は速度が尋常ではなく、事前に対策を立てねば通常は防げる物では無い。


 俺は起き上がりざまに水魔法を発動させる。そして、闘技場内を濃い霧で覆い尽くす。これで雷は拡散され、その威力を十分に発揮出来ない。


 それどころか、下手をすれば自分自身が感電する。ブリジットもこの状況では、まともに魔法を使えないはずだ。


「チッ、初手から随分と殺意が高いじゃないか?」


 まあ、雷属性の有効な使い方こそが不意打ちにある。そういう意味では合理的な使い方なのだろう。


 ただ、俺が下手を打てば手合わせ所ではない。一撃で俺が戦闘不能になり、オズの望む物が見れなくなった可能性もあったのだが……。



 ――ヒュゥゥゥ……ゴウッ……!!!



「くっ! 何だ……?!」


 突然の突風により、俺の展開した霧が吹き飛ばされた。そして、霧の中から現れたブリジットは、俺へとロッドを突き付けていた。


 その先端が示す色は濃い青。それは水属性よりも色濃い、氷属性を示していた。


「何だと……?!」


 俺は咄嗟に炎の壁で周囲を覆う。無数の氷の礫が飛来するが、その悉くが炎によって溶かされる。


 今度は防御が間に合ったとはいえ、一歩遅ければ蜂の巣にされていた。その事実に俺は背筋に嫌な汗が流れる。



 ――俺を殺す気で掛かって来ている……?



 相手を格上とは思っていないが、それでも恐らくは俺と同格の実力者だ。決して油断出来る相手ではない。


 つまり、俺は死力を尽くす事を望まれているらしい。手ぬるい手合わせでは無く、オズは俺の死合いを見たいらしいな……。


「やれやれ……。だから、魔女とは関わりたく無いんだ……」


 雷属性に風属性と氷属性。考えられる可能性は一つ。相手は無色の魔力持ち。俺と同じ万能タイプの魔法使いだと言う事だ。


 そして、俺は懐から二本の杖を取り出す。長さはブリジットの物より半分程度。けれど、その使い道は奴のロッドと変わらない物だ。


「まさか、こんな形で使う事になるとはな……」


 元々はギガンテス攻略の為に用意した魔道具。格上相手でも魔力で強引に突破する為の武器である。


 それをこんな形で披露するとは思っていなかった。それも、俺と同じ戦闘スタイルの相手に対してとはな……。


「くくくっ、だが決して悪くは無い……」


 俺はブリジットへと杖を向ける。すると、初めてブリジットが警戒した様子で俺の様子を伺いだした。


 恐らくはこの杖について、オズから何も聞かされていないからだろう。当然ながらオズもこの杖の事は知らないだろうからな。


「さて、それでは実験と行こうか?」


 ダンジョン深層のひり付く空気。それと同じ空気が闘技場に漂い始める。


 一国を滅ぼし得る程の化け物同士の戦い。その殺意渦巻く魔力が、見るもの全ての肌を震わせ始めた。

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