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のんびり屋の鳥人(アリス視点)

 わたしと距離を置いて立つ鳥人の女性ハーシーさん。彼女は成人男性程に背が高く、細い体は薄手の白い服を纏っているだけ。


 そして、その細い体には不釣り合いな程の大きな胸。どうしてもまず、そこに目が吸い寄せられます。


 もしかしたら、わたしの頭と同じくらいの大きさ? あんな大きな胸を初めて見ました……。


 わたしが興味深く観察していると、口も動かさずにハーシーさんの声が届いた。


『女王様が初めて良いとのことだ』


「えっ……?!」


 耳元で囁かれたかの様な声に、わたしは思わず驚きの声を上げます。振り返りますが、やはりそこには誰もいません。


 つまりは今の声がハーシーさんの物。恐らくは魔法を使って、わたしに声を届けたみたいです。


 普通に話せば聞こえる距離なのに、どうしてわざわざ魔法を使ったのでしょうか?


「えっと、手合わせを初めて良いんですよね?」


 わたしが尋ねるとハーシーさんはコクリと頷く。そして、ぼんやりした目で私を見つめ続ける。


 どうにもハーシーさんにはやる気が感じられません。本当に今から戦いを始めて良いのでしょうか?


 わたしは戸惑って様子を見ますが、ハーシーさんは身動き一つ取りません。どうしたものかと悩んだ末に、ひとまず挨拶から始める事にした。


「わたしは兎人のアリスです。本日は宜しくお願いします」


『……鳥人のハーシーだ。私は何もしないから好きにしろ』


 ハーシーさんは返事を返してくれました。ただ、口は全然動いてないし、声を魔法で届けた感じでしたが……。


 とはいえ、先ほどのペローナさん、ジークさんの様な殺伐とした雰囲気でもありません。わたしはその事にホッとしつつ、両手にククリ刀を握りました。


「……好きにして、良いんですよね?」


 わたしの呟きにハーシーさんは小さく頷きます。独り言のつもりでしたが、しっかり聞こえていたみたいです。その事に驚きつつも、わたしは武器を構えて相手を観察します。



 ――どうしよう。隙だらけだ……。



 ペローナさんとの訓練で、わたしは相手の隙を探る事を覚えました。警戒する相手に対して、どう攻撃するかを考える為です。


 けれど、ハーシーさんはわたしにまったく警戒していません。ただそこに立っているだけの、的にしか見えないのですが……。


 本当に攻撃して良いのでしょうか? うっかり攻撃したら、大怪我させてしまわないかな?


 そんな不安を感じるわたしですが、軽く踏み込むかと考えた所で違和感に気付きます。


「……何だろう、これ?」


 肌に何だか嫌な空気が纏わりついています。ピリピリした感じでは無いのですが、ねっとりとした不快な空気と言うのでしょうか……。


 何となくですが、これは良い物では無い気がします。わたしはその空気を遮断する為に、弱めの『風の防壁』を展開しました。


『ふむ……?』


 また、ハーシーさんの声が魔法で届きます。けれど、今度はその声が少し遠い。『風の防壁』の向こう側から届いています。


 もしかすると、この嫌な空気はハーシーさんの魔法でしょうか? わたしに声を届ける為に、何かの魔法を使っていたのかな?


 少し気になりましたが、ハーシーさんはそれ以上何も言いません。ただ、少しだけわたしを警戒したみていで、先ほどより戦いやすくなりました。


 敵意も感じられないし、あまり怖い感じはしません。なので、わたしは意識を集中し、ハーシーさんへと声を掛けます。


「それでは、アリス参ります!」


 わたしは地面を蹴って、ハーシーさんへと飛び掛かります。ブーツの『加速』が掛かっているので、これでハーシーさんの懐まで飛び込めます。



 ――ふわっ……。



「えっ……?」


 わたしは何が起きたかわからず、思わず声を漏らします。何故だかわたしは、ハーシーさんよりもかなり手前。ククリ等の射程圏外で着地してしまったのです。


 あたしをじっと見つめるハーシーさん。わたしは混乱もあって、そのままハーシーさんと見つめ合ってしまいます。


 けれど、ハーシーさんは両手の翼を広げ、軽くふわっと羽ばたきます。すると、わたしは風に押し戻されて、先ほどの場所へと戻されてしまいました。


「今のは、何だったの……?」


 理由はわかりませんが、勢いが殺され減速しました。風も吹いていなかったのに、向かい風の中を進む感じだったのです。


 ハーシーさんはまったく動きませんでした。けれど、彼女が何らかの魔法を使ったのでしょう。そうとしか思えない現象です。


 ハーシーさんはぼんやり立っているだけ。瞳は眠そうで何を考えているのかも読み取れません。けれど、わたしは一つわかった事があります。



 ――この人は、強い……!



 グリム様やペローナさんと同じ位、強者の気配を感じ取れました。話には聞いていましたが、やはりこの人はわたしなどよりも遥かに強い人なのです。


 そんな人に胸を貸して頂ける事に感謝します。そして、わたしはワクワクする気持ちを抑え、再び彼女へと飛び掛かりました。

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