表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/128

観覧席

 ペローナの治療を終えた俺は、彼女を伴って観覧席へと移動する。こちらに来いと言うオズの視線を受け、俺は嫌々ながらに彼女の隣に腰を下ろした。


「くふふ、中々にやりおる。未だ至っておらぬ身で、ジークを出し抜くとはのう」


 オズの視線がペローナに向く。俺を挟んで反対側に座る彼女は、嫌そうに顔を歪めていた。


 オズを嫌う気持ちは俺も同じだ。けれど、今はそれよりも彼女の言葉が気になった。


「何のことを言っている? 未だ至っておらぬ身とは?」


 俺の問いに、オズは意味あり気に微笑む。しかし、俺の問いに答える気はないらしい。


 仕方が無いので俺はその答えを諦める。そして、俺はその答えを何となくだが予想する。



 ――超越者……。



 超越者とは種族の常識や限界を超えた者。目の前のオズもエルフ族の超越者。ハイエルフと呼ばれる存在だ。


 そして、彼女の背後に立つ白髪獣人に視線を向ける。もしかするとジークと言う名の騎士は、獅子人族の超越者なのかもしれない。


 先程の戦いでもまったく本気を出していなかった。見える魔力量を考えると、一割も魔力を使っていなかったはずだ。


 ジークが先ほど降参したのも、本気を出したら殺す可能性があるから。それを主人であるオズが望まないだろうと考えたからだろう。


 つまり、ペローナの手の内は全て晒したが、相手の手の内はまったく晒していない。オズとしては十分に目的を達成出来たと言う事になる。


 勝ちは譲られたが、内容的には大敗である。敢えてそれを、隣のペローナに告げるつもりも無いがな……。


「さて、次は何を見せてくれるのかのう?」


 楽しそうに闘技場を見つめるオズ。その先には、緊張した面持ちのアリスと、ぼんやりした表情の青髪鳥人ハーシーが対峙している。


 なお、アリスはA級昇格を申請中で、才能は兎も角として経験値的には不安が大きい。S級と言う格上相手に勝つのは難しいだろう。


 しかし、先ほどのペローナの件があった為か、オズは興味深そうにアリスを見つめる。何を見せてくれるのかと、期待値が非常に高そうであった。


「まあ、勝っても負けてもどちらでも良いが……」


 どうせアリスの手札を隠したままでは、オズは決して満足しないだろう。アリスの手札を隠し通せるとは俺も思っていない。


 そして、アリスは未だに発展途上。今のアリスを知られた所で、その未来の実力が測れるとも思っていない。


 だからこそ、この戦いでアリスが何かを掴めれば良い。勝ち負けよりも、そこに意味があると考えているのだが……。


「――ん? 何だ、アレは……?」


 俺はアリスの対戦相手を見つめ、思わず呆然と呟く。魔力の扱いに長けているとは思っていたが、とんでもない事をやらかしていた。


 この闘技場一体に、彼女の魔力を微細な粒子として散布しているのだ。いわばこの闘技場全てが、今や彼女のテリトリーと言っても過言ではない。


 やろうと思えば俺でも出来る。しかし、とんでもない集中力と魔力を消費する事になる。こんな無駄が多い魔法の使い方を、俺はやりたいとは思わないのだが……。


「いや、待て……。何だあの魔力の器は……?」


 俺はギョッと目を剥く。あの青髪鳥人は細長い体に薄手の衣。さらには巨大な胸と、何となくアンバランスさを感じていた。


 しかし、改めて見るとその異常さが際立つ。眼鏡を通して見える魔力が、その双房にとてつも無い魔力を蓄えていると示していた。


 魔力の器が二つ――左右の乳房にあると言うの意味不明だ。更にはその魔力の器は、それぞれが今のアリスと同程度の魔力量を誇っている。


 先程までは見事に制御されて欺かれたが、魔力量だけで言えば俺を超えている。下手をすればオズに匹敵する魔力量ではないだろうか……。


『――女王様、始めて宜しいでしょうか?』


 耳元で聞こえた声に、俺はビクリと肩を震わせる。この声はハーシーが届けた物だ。


 ただ、余りに自然で繊細な魔力制御だった為、魔法の発動を見る事が出来なかった。


「ああ、構わぬ。好きに始めるが良い」


 オズは特に声を張り上げるでも無く、小さな声で返事をする。すると、本来なら聞こえるはずの無い距離なのに、ハーシーはコクリと頷くアリスに視線を向けた。


 ハーシーは魔力の色が緑。アリスと同じで風属性の魔法を扱える。しかし、その扱い方は恐らく、アリスの様な一般的な使い道では無い。


「空気……。そして、音か……?」


「くふふ、流石はグリムじゃな」


 俺の呟きにオズがニヤリと笑みを向ける。どうやら俺の推測は正しかったらしい。


 そうなると何の情報も持たないアリスでは、初見での対応が困難かもしれない。アリスにとっては何をされたか、わからない状況で戦う事になるだろう。



 ――だが、これはこれで面白い……。



 ハーシーが使う魔法に興味をそそられる。風属性限定とは言え、俺に匹敵する魔法使いの戦いは、そうそうお目にかかれないからな。


 そして何より、アリスがどう対処するかだ。俺の助言が無い中で戦う事になる。彼女がどう立ち回るのか、俺はそれを見てみたかった。


 命の取り合いでも無く、勝ち負けも拘る必要が無い。オズの要望で始まったこの手合わせを、俺は少しばかり楽しみ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ