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闘技場

 時間にして一時間少々と言った所だろう。銀鎧と白髪獣人の二人が戻って来た。闘技場が完成したとのことだ。


 オズは青髪鳥人の魔法で、窓からふわふわと飛んで行く。それを見た俺はその術式を真似、アリス、ペローナ、ケロッグ子爵を連れて後を追った。


 空を飛べば闘技場は一目瞭然。アンデルセンの街のすぐ側に、新造の施設が目に入ったからだ。


 地面を抉って造られた闘技場。俺達はそこに向かって下降した。


「見事だぞ、ブリジット。また腕を上げたな?」


 オズが声を掛けると、銀鎧の従者が首を垂れる。臣下の礼と言った所か。


 俺はその様子を横目に闘技場を確認する。そして、その出来前に内心で舌を巻く。


 この闘技場は円形であり、周囲は五段の観戦席が設けられている。石材などは使われておらず、全ては元々あった土だけである。


 しかし、その土に見事な加工がされているのだ。限界まで圧縮されて、岩と同じだけの硬度を持たされている。


 というよりも、かなり深く抉られたているのに、元あった土が何処にも無い。ここにあった大量の土は、その分だけ魔法で凝縮されたと言う事である。


 やろうと思えば俺でも出来る。一度見た今ならば、同じ時間で作れるだろう。しかし、俺は銀鎧の従者に歯噛みする。



 ――恐らく、俺と同等の技量……。



 こと魔法に関して、俺は世界屈指だと自負している。その魔力量も技量も、オズを除けば他の誰かに負けるつもりは無い。


 しかし、このブリジットは俺に匹敵する存在なのは確かだ。鎧の効果か魔力量は見えないが、そちらも決して少なくは無いのだろう。


 これ程の魔法を操るには、相当な修練が必要となる。俺の様に日常的に使える魔力量が無ければ、ここまでの技量には達しないはずだからな。


 俺が内心で唸っていると、オズがパチンと指を弾く。そして、魔法の発動と同時にこう告げた。


「余の魔法で守りを固めた。これでそうそう壊れる事はなかろう。まあ、使い捨て故、壊れても構いはせんがな?」


 俺は自ら足元に視線を向ける。確かに強固な結界が張られている。それも薄い膜なのに、俺の家の結界よりも濃厚な魔力が感じられる。


 やはり、魔力量においても技量においても、俺はこの魔女には敵わない。今はまだ、ではあるがな……。


「あの、オズ殿。使い捨てと言う事は、私の方で再利用を行っても……?」


 ケロッグ子爵が片手を上げてオズに問う。どうもこの闘技場を、今後も使って行きたいらしい。


 確かにこれだけの施設だ。領地経営者としては、色々と利用法を思いついても仕方あるまい。


「くっくっく、好きにせよ。元々、この場所はお主の領地であるしな?」


 オズはいつも通りにニタニタと笑う。彼女の目的は俺達の腕を見る事。その為に用意した闘技場であり、その後の事なんて興味も無いのだろう。


 その笑みを見たケロッグ子爵もニタリと笑う。本人達にその気があるかは知らんが、傍から見てると悪だくみしている様にしか見えんな……。


 まあ、そんな事はどうでも良いか。俺が視線をオズに向けると、彼女は薄ら笑いと共にこう告げた。


「まずはジークにするか。ジークよ。誰と戦ってみたい?」


「俺ですか? そうっすね。そこの黒いわんころっすかね」


 白髪獣人の男はペローナを指さす。指名されたペローナは、微かに不快そうに眉を顰めた。


 ケロッグ子爵だけは不思議そうに首を捻るが、相手側は全員が気付いているとみるべきだろう。ペローナは魔法で姿を偽っているが、本来は狼人獣人である事に……。


「そいつ、臭ぇんすよ。色々と偽ってますが、俺の鼻は誤魔化せねぇ。ちぃとばかし、ボコっても構わねぇっすかね?」


「と、うちのジークが言っておる。そちらに異論はあるか?」


 オズの視線が俺とペローナを順に見る。俺はペローナに視線を向け、判断を任せると示す。


 どうせ誰かとは手合わせしなくてはならない。ならば、誰を相手に選ぶかは、ペローナが決めるべきだと思ったのだ。


「ああ、私は構わない。誰が相手でもやる事は同じだ」


 ペローナならばそう言うだろう。淡々と自分のやるべき事をこなす奴だからな。


 オズはその返事に満足し、大きく頷き歩き始めた。壁際の観客席へと移動するみたいだ。


 銀鎧と青髪鳥人もそれに続く。オズは視線を俺に向け、俺達にも付いて来いと告げる。


 俺はそれに従う前に、ペローナに近寄り、その耳元でそっと囁いた。


「恐らく、奴の魔法は光。お前とは真逆だから気を付けろ……」


 驚きの視線を向けるペローナ。こういうアドバイスがあるとは思っていなかったのだろう。


 しかし、相手はペローナの正体に気付いている。そして、ペローナが闇の魔法を使うと言う事も知っているはずだ。


 ならば、この程度の情報は問題あるまい。これを教えてようやくフェアと言うものである。


 俺はペローナから顔を離し、アリスと共に観客席へと向かう。そんな俺の背中に、ペローナがこう声を掛けて来た。


「任せろ、グリム。私が右腕である事を、皆の前で証明しよう」


 振り返るとペローナは、珍しく獰猛な笑みを浮かべていた。最近の彼女は良く感情を露にする。俺はそれを、決して悪い変化だとは思わないがな。


 俺は小さく頷き、そのまま足を進める。この先はペローナの戦いだ。俺はそれを、ただこの目で確かめるのみである。

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