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苦報

 今日の俺は一日掛けて、魔晶石の生成を行う予定である。大量の魔石を確保したので、まとめて処理してしまおうという考えだ。


 アリスやペローナにも休息は必要だろうしな。今日は休めと二人に告げて、俺は研究室に引き籠っていたのだが……。



 ――コンコン……。



 研究室の扉がノックされた。俺は常に周囲をサーチしているので、それが誰かは理解している。


「入れ、アリス」


「失礼します、グリム様」


 俺は作業の手を止め、扉の方に振り向く。すると、そこではアリスがお辞儀をしていた。


 普段着がメイド服なので、本物のメイドに見えてくる。彼女もそれを意識している節があり、俺としては好きにさせている。


 まあ、それはさて置きアリスの用事だ。何の用だと視線で問うと、彼女は困った顔で俺を見つめた。


「グリム様に来客です。その、以前知り合ったMr.ダンディさんなのですが……」


「何だと? 奴が家まで来ているのか?」


 元々ジャバウォックの手先だった裏社会の人間。故あって関係を持ち、ジャバウォックの動向を探らせている奴だ。


 出来れば余り接触している所を見られたくはない。何かあって切り捨てる際に、関係者だと思われたくないからだ。


 とはいえ、アリスがペローナに襲われた際に知らせてもくれた。俺に媚びを売る為とは言え、俺の役に立ったのは確かだ。


「……仕方がない。家の中で話を聞くか」


 俺は腰を上げると玄関に向かう。そのすぐ後ろをアリスも付いて来る。


 そのまま庭に出て、敷地の外へと目を向ける。すると、何故だがペローナが、Mr.ダンディの首根っこを掴んでいた。


「……何をしている?」


「こいつの要望だ。この方がグリムには都合が良いらしい」


 俺が視線を向けると、Mr.ダンディはへらりと笑う。金髪オールバックに片目は眼帯。赤いシャツに黒いズボンと、堅気には見えない男である。


 そして、俺は周囲の視線に気づく。近隣の住人達はMr.ダンディを憐みの視線で見つめていた。何か馬鹿をやらかしたのだろうと思われているらしい。


「なるほどな。意外と機転が利くらしい。良いだろう、俺の家に入れてやる」


「良いんですかい? 旦那の家には結界が張られてるって聞いてやすが……?」


 俺が人避けに結界を張っている事は、この街の住人には知られている。流石にこの男も、その程度の事は理解しているらしい。


 つまり、僅かなりとも俺の信頼を得られたのだと。俺が結界の登録を終え、手招きするとMr.ダンディは嬉しそうに後に続いた。


 俺を先頭に全員でリビングへと移動し、俺とMr.ダンディは向かい合ってソファーに座る。アリスは俺の背後に控え、ペローナはMr.ダンディの背後で睨みを効かせる。


「それで要件は何だ? ジャバウォック関連か?」


「いえいえ、そっちに動きはありやせん。別件でお耳に入れたい事が御座いやして……」


 Mr.ダンディは揉み手をしながらへらりと笑う。安っぽい笑みだが、恐らくこれは演技だろう。


 侮られる位で丁度良い。プライドよりも、実利を選べるタイプと言う事である。


「旦那はもう聞いてやすか? 王国の魔女について……」


「王国の魔女だと? まさか、奴に何か動きがあったのか?」


 俺は心底嫌な気分で問い返す。アレは関わってはいけない存在。この国で唯一、俺が苦手とする存在なのだ。


 しかし、この世に神はいないらしい。Mr.ダンディは神妙な顔でこう告げた。


「へい、この街に向かってやす。お供の三獣士を連れて」


「……この街に向かっている、だと?」


 この街にはダンジョンがある。しかし、深層が高難易度過ぎて、上位の冒険者には人気が無かったりする。


 それ以外には特に特産品がある訳でもない。アンデルセンの街に、王国の魔女が興味を引く物があるとは思えない。



 ――つまり、目的は俺だ……。



 俺との契約を無視して、俺の元にやって来る気なのだ。その可能性は考慮していたが、こんなに早くその日が来るとは……。


 俺は項垂れて大きく息を吐く。すると、背後でアリスが戸惑った声を漏らした。


「グリム様、大丈夫でしょうか? その、王国の魔女とは一体……」


 俺は顔を上げて視線をアリスに向ける。そして、この状況では仕方がないと、彼女に対して説明する事にした。


「通称は王国の魔女で、彼女の名はオズ。そして、王立魔法研究所の所長だ。この国で誰よりも有能で、誰からも嫌われる存在でもある」


「誰からも嫌われる……。それは、どうして……?」


「それは奴がハイエルフーーエルフ達の女王だからだ。オズはこの国の中で、国王に匹敵する権力を有している」


 アリスがハッと息を飲む。小刻みに身を震わせているのは、エルフへの忌避感なのかもしれない。


 獣人のアリスにとっては仕方がないこと。そう考えていたら、ペローナが苦い顔でこう吐き捨てた。


「しかも、あのババアはグリムに求婚を……」


「おい、ペローナ……。それ以上は言うな……」


 苦々しい記憶が蘇り、俺はペローナと同じく顔を歪める。あの時は本当に最悪の気分を味わう事になったからな。


 ただ、そんな俺達の態度に、Mr.ダンディは苦笑いだった。どうも、隠蔽されたあの出来事を、この男は知っているらしい。何とも侮れない男だ。


 まあ、今はそんな事はどうでも良い。彼の齎した苦報に、俺は頭を抱えるしか出来ないのだから……。

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