第3幕 誤解の解決 & おじいちゃんの敗北(?)
おじいちゃんはミステリアスな男の後をしっかりとつけて、商店街を通り抜け、ついにパン屋の前で男を捕まえた。杏子はその様子を見て、何度目かのため息をつく。
「おじいちゃん、やめようよ。さすがに無理があるって」
「いや、ぱみゅ子!この男、間違いなく何か知っておる!」
おじいちゃんはしっかりと男を掴んで引き寄せた。その瞬間、男は驚いた様子で一歩後ろに下がった。
「な、なにをするんですか!」
「正体は分かっておるぞっ!」おじいちゃんは気迫を込めて言った。
「ちょ、ちょっと待ってください!僕、ただの宅配業者ですから!」男は顔を真っ赤にしながら答えた。
「宅配業者?」おじいちゃんは一瞬、動きが止まったが、すぐにまた目を鋭くして言った。
「なんだと?それなら、なぜこんなに急いでパン屋に向かっている?」
男は冷や汗をかきながら、焦りを隠せない様子だった。
「いや、実は……新作メロンパンの試作品を届けに来たんです」
「新作メロンパン?」おじいちゃんがその言葉に目を輝かせた。
「試作品のメロンパン、です。拓哉店長と打ち合わせをしていたんですよ……」男はようやく冷静さを取り戻し、説明し始めた。
「試作品のメロンパン……それをわしに隠していたって言うのか!?」おじいちゃんは興奮気味に叫んだが、杏子がすかさず口を挟んだ。
「おじいちゃん、落ち着いてっ」
「し、試作品?」おじいちゃんはその言葉に戸惑いながら、改めて男を見る。
「はい、そうです。拓哉店長が考案した新しいレシピで、しっとり系のメロンパンなんです」
「ああ……なるほど」おじいちゃんはようやくその言葉を飲み込んだ。しかし、まだ完全には納得がいっていない様子だった。
「和田店長が改良したんじゃな、メロンパンのレシピを。あの若い店長が、健康を気にして……」おじいちゃんがつぶやく。
男はうなずきながら言った。
「はい、拓哉店長がダイエットに気を使って、少しヘルシーにしたいということで。今までのサクサク感を残しつつ、しっとり感を加えることで、もっと多くの人に食べてもらえるようにと思ったんです」
おじいちゃんはその言葉を聞き、しばらく黙り込んだ。
「……それじゃ、ただのレシピ変更じゃないか……」
「ええ、そうです」男はにっこりと笑う。
おじいちゃんは腕を組み、考え込んだ。
「……しっとり系のメロンパン……」
「だから、それは変な連盟の革命でも陰謀でもなんでもないんだってば!」杏子が呆れた声で言う。
おじいちゃんは一瞬黙ったが、すぐに顔を上げ、心の中で何かが折れたような気がしたのだろう。
「しっとり系も……まぁ、悪くないかもしれんな」
「え?おじいちゃん、ついに認めたの?」杏子が驚いた声を上げた。
「いや、ダメじゃ!やっぱりサクサクが正義じゃ!」おじいちゃんは再び勢いよく言い直す。
「もう、何なのよ!」杏子は頭を抱えた。
その後、おじいちゃんと杏子はパン屋でひとしきり話し込み、男は無事にメロンパンの試作品を店内に届けた。杏子はおじいちゃんにどうしても「メロンパン革命の陰謀説」だけは撤回させたかったのだが、結局、おじいちゃんは心の中でサクサク派に戻っていたらしい。
杏子は「もう好きにして……」と言いながら、疲れ果てた顔をしていたが、おじいちゃんはといえば、すっかり満足そうな顔をして帰路に着いた。
「ぱみゅ子、やはりサクサクメロンパンに勝るものはないな」
「あーもう、言い出したら聞かないんだから……」杏子は呆れながらも、やっぱりおじいちゃんに付き合っていた。
交渉の結果、サクサクのメロンパンも少量ながら残すことに、拓哉店長もしぶしぶ同意したのだった。毎日来てくれるお得意さんだしね。
そして、夕方。再び「ベーカリー拓哉」の前に立ち寄った二人。
「よし、今度こそ、サクサクメロンパンを買うぞ!」
「おじいちゃん、結局、買うんじゃん……」杏子はもう笑いながら言った。
「やはりメロンパンはサクサクが一番じゃ!」
杏子はため息をつきながらも、笑顔で頷くのであった——。