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5 ハッピーエンド

 始めるよ、と言ってクレイスはティアラの胸元の前に片手を出す。すると、蒼白く光る魔法陣が浮かびあがった。


 クレイスは瞳を閉じて意識を集中させる。クレイスの周囲に光の粒がキラキラと舞い、クレイスの美しい銀髪がふわりと浮く。次第に、魔法陣の光が強くなり、ティアラの周囲にも光の粒が集まって来た。ティアラの心臓がドクドクと早まっていく。


(なんだろう、何かに包まれているような感じ……爽やかで優しくて清らかで、ほんのりとあたたかくて、なんだか安心する)


 ティアラが静かに瞳を閉じると、目の前がどんどん光輝いていく。そしてそのまま、ティアラはまるで光に吸い込まれるように意識を手放した。



「……アラ、ティアラ」


(誰かが私を呼ぶ声がする……この声は、クレイス様?)


 ん、と小さくうめき声をあげながら、ティアラはゆっくりと瞼を開いた。目の前には、心配そうな表情のクレイスがいる。


「よかった、目を覚ましたんだね」


 目覚めたティアラを見て、クレイスは嬉しそうに微笑んだ。


「私、気を失ってしまったんですね?すみません」


 そう言ってゆっくりティアラが体を起こすと、クレイスが優しくティアラの背中に手を置いて支える。


「大丈夫?おかしなところはない?」

「えっと、たぶん大丈夫です……って、あれ?」


 返事をしながら、ティアラはなぜか泣いていた。ティアラの両目からぽろぽろと涙の粒があふれ出す。


(どうして?私、悲しくないはずなのに泣いている?)


 呪いを受けてから、ティアラは一度も泣くことがなかった。感情を表すことができなくなったと同時に、そもそも喜怒哀楽の感情がティアラ自身、よくわからなくなっていたのだ。クレイスと出会い、一緒に過ごすようになってから、ようやく徐々に様々な感情が自覚できてきたところだった。


 呪いが解かれたティアラの心に、今まで閉じ込められていたありとあらゆる感情が浮き上がり、ティアラは混乱する。そして混乱したまま、涙はずっと流れ続けていた。


「どうして……私、泣いて……?涙が、止まらな……っ」


 一生懸命に涙を手で拭うティアラを、クレイスは優しく抱きしめた。


「ティアラ、思う存分泣いていいよ」

「……っ!うっ、ううっ」


 クレイスに抱きしめられながら、ティアラはクレイスの胸の中で嗚咽を漏らしながら泣いていた。



 それから、どのくらいたっただろうか。ティアラはようやく落ち着き、涙も流れなくなった。


(私、こんなにも色々な感情を持っていたのね)


 全く自覚することなく、ずっと生きてきた。たくさんの感情を爆発させるかのように泣いたら、驚くほどにすっきりとしている。ふと、ティアラはクレイスの腕の中であることに気が付いた。


(クレイス様、呪いを解くには反動があるって言っていたわ。それを恐れてクレイス様のご両親は私の呪いを解こうとしなかったって。もしそうなら、呪いを解いたクレイス様に反動が来ているのでは……?)


 ハッとしてティアラは顔を上げた。クレイスと目が合うと、クレイスはティアラの顔を見て驚いた顔をしている。ティアラの表情が、何かを心配するような、不安で必死な表情になっていたからだ。


「クレイス様、私の呪いを解いたせいで反動が来ているのではないですか?大丈夫なのでしょうか?」


 ティアラの問いに、クレイスは驚いた顔のまま一瞬止まるが、すぐに微笑んだ。


「大丈夫だよ。俺はこの国の筆頭魔術師だ。呪いを解いた際の反動なんて俺にとっては無いようなものだから」

「そうだったんですね……よかった」


 クレイスの返事に、ティアラは心底嬉しそうに微笑む。その微笑みを見た瞬間、クレイスの胸の中に爽やかな風が吹いていく。クレイスの目の前にあるもの全てがキラキラと輝いて見え、ティアラの微笑みはどんなものよりも美しいと思った。


「君は、またそうやって俺のことを思って微笑んでくれるんだね。ありがとう」

「……えっ、あ、私、微笑んでいる……?クレイス様、私……!」


(そうよね、クレイス様が呪いを解いてくれたのだから、表情が動いていても何にもおかしくない。でも、本当に私、笑えているのね)


 ティアラは不思議そうな顔で自分の頬を両手でぺたぺたと触っている。そんなティアラを、クレイスは今度は少しだけ強く抱きしめた。


「よかった。また君がそうして笑ってくれて。本当に嬉しいよ」

「クレイス様……ありがとうございます。呪いが解けたら、どうなってしまうんだろうって本当は不安だったんです。でも、こうして私は私の心を、表情を取り戻すことができました。クレイス様のおかげです」

「もとはと言えば俺のせいなんだ。だからお礼なんて言われるほどのことはしてないよ」


 クレイスの言葉を聞いて、ティアラはクレイスの腕の中で首をブンブンと振った。


「あの時、私がクレイス様を庇ったことで、クレイス様にはずっと辛い思いをさせてしまったかもしれません。でも、やっぱり私は、こんな呪いがクレイス様にかからなくて本当に良かったと思っています。それに、こうやってクレイス様は呪いを解いてくださいました。私を、私に戻してくれたんです。だから、クレイス様のおかげです。本当に、ありがとうございます」


 そう言って、ふわりと微笑むティアラの表情は優しく、まるで花がほころぶような穏やかな微笑みだった。その微笑みを見て、クレイスの心はじんわりとあたたかくなり、心臓はトクトクと速く鳴っている。そしていつの間にか、クレイスはティアラに顔を近づけて、軽くキスをしていた。


(え……?クレイス様に、キス、されてる?)


 クレイスが唇を離すと、ティアラは茫然としたままクレイスの顔を見つめる。


「ごめん、あまりにも君への気持ちが溢れてしまって、思わずキスしちゃった。嫌だったかな?」


 眉を下げ、クレイスは少し困ったようにティアラに尋ねる。


「い、嫌では、ない、ですけど、あまりに急で……」

「じゃあ、急じゃなかったら問題ない?」

「そ、それはっ!その聞き方はズルいです!」


 顔を真っ赤にして抗議するティアラを、クレイスはフフッと笑いながら愛おしそうに見つめ、ティアラの両手をそっと掴む。


「好きだよ、ティアラ。俺とずっと一緒に生きて欲しい」


 美しい紫色の瞳が、ティアラの瞳を射抜いて離さない。ティアラは顔を真っ赤にしながら、照れたように微笑んで小さく頷いた。それを見たクレイスは優しくティアラの頬に手を添えて、またティアラにキスを落とした。




最後までお読みいただきありがとうございました!

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