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【短編版】’ll never walk alone.

作者: 佐倉ユキト

 大きく息を吸って、吐く。大丈夫、今までずっと練習してきた。

 そうは言っても、肩にかかるストラップが今日は一段と重く感じた。

 ああ、あっちはそろそろキックオフだろうか?

 きっとキミのことだから、緊張なんてしないで堂々と、いつもの不敵な表情でピッチに立っているんだろうな。



 キミに初めて出会ったのは、中2の夏。

 私には小さな頃から仲のよい従兄弟がいる。ずっとサッカーをやっていて、ジュニアユースの代表候補にもなるぐらいだった。そんな従兄弟の合宿先が家からちょうど近くて、練習試合は応援に行ったりもした。

 夏の間、私はよく朝の河川敷にギターを持って出掛けていた。開けていて民家も遠いし、人通りも少ない時間。練習にはもってこいの場所だった。



 ──ボールの音が聞こえる。


 この辺りはテニスやサッカーなどなにがしかのスポーツを練習している人をよく見る。階段下にちょうどいい感じの壁があるからかな。ギターを弾いている間、ずっと一定のリズムで弾む音が気になっていた。

 ギターを仕舞い撤収するところで下をちらりと覗いてみると、顔に絆創膏を貼った男の子が一人でサッカーの練習をしていた。何かを呟きながら、確認するように何度も何度も同じ動き。随分熱心だ。


「あ、朝日奈じゃん」

「ひえっ」


 突然真横から声が聞こえて飛び上がる……けれど従兄弟の隼兄だとすぐ気がついてホッとした。


「昨日ぶりだな、セツ」


 驚くので普通に声をかけて欲しい……と言っても無駄なので言わないけれども。

 昨日練習試合を応援しにいって、だから今日はオフだと言っていた気がする。ジャージ姿なので走り込みをしていたんだろう。


「知ってる人?」

「昨日後半途中交代してたやつ」


 ああ、確かに、衝突して鼻血が止まらず交代していったひとが相手チームにいた。納得いかないようで下がっていくまでにかなりごたごたしているように見えたけど……


「悔しかったんだろうなぁ」


 なるほど、だから何度も同じ動きを練習しているんだ。あの時こう動けていれば、と。

 俺も負けてられないぜと軽く言って隼兄は走り込みに戻っていった。

 私はしばらくその場所で、彼が練習するのを眺めていた。



 高校に入学して、彼──"朝日奈太陽"と同じ学校、しかも同じクラスになって驚いた。あのとき一方的に見ていただけだからもちろんキミは私のことなんて知らなかったけれど、憎まれ口を叩いたりお互いの健闘を祈るくらいの間柄になるなんて、想像もしてなかったな。

 キミはいつだって自信家で、でもそれに足るだけの努力家で。名前の通り、とても眩しい人だった。私も負けてられないなと何度も思った。今日だって、そうだ。


 さあ、幕が上がる。

 最高の演奏をしたぞ、来れなくて残念だったなと、次にキミに出会えたとき言ってやるんだから!

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