バレンタイン
「ねえ飼い主、明日ってバレンタインなんだって。知ってる?」
「あー、今日って2月13日か。忘れてた」
それにしても、椛の方からバレンタインの話を持ち出すなんて、驚いた。そういう行事みたいなのは興味無いかと思ったけど。
「でも、バレンタインに興味あったんだな。少し意外だよ」
「別に。興味はない。ただ知ってるか確認しただけ」
なんだ、確認しただけか。え、なんで確認したんだろ。まあいいか。それにしても。
「バレンタイン。バレンタインか••••••」
「飼い主、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
チョコを作ってみるのもありか? でも俺、料理下手だし、チョコなんて作れないよな。市販のものでも喜んでくれるか。
「なあ椛、バレンタインチョコとか興味ある?」
「え!? チョコ••••••」
「ん?」
「いや、ないない。興味なんてないない」
急に慌ててどうしたんだろ。やっぱり、バレンタインに興味でもあるのかな。
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ビックリしてないなんて言ったけど、正直ある。少しだけ。飼い主にあげてもいいのかな。なんて少し思う。
飼い主もなにか考えてたみたいだし、もしかしたら飼い主もチョコを?
「飼い主、スマホ貸して」
「え、良いけど、なにするの」
「教えない。いいから貸して」
「? まあいいか。はい」
スッ
「ありがと」
これで、手作りチョコの作り方を調べて。
ポチポチ
あ、あった。
難しいのと材料がかかるものは作れないけど、溶かして型に流し込んで固めるタイプなら出来そう。そこに色々と手を加えて好きな形に。これにしよう。
「飼い主、スマホ返す」
「え、もういいの?」
「うん、もうメモはし。いやなんでもない。いいから返す」
危ない、メモをしたって言いかけた。ほとんど言っちゃったけど。飼い主が知ったら間違いなく何をメモしたのか聞いてくるはず。
「そ、そう? 用事終わったならいいんだけど」
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さて、椛にあげるチョコを考えるか。
市販の板チョコも良いが、チョコのケーキ。いや、そもそもミルクチョコじゃなくてビターの方が好み?
本人に聞くのが1番良いけど、聞いたらバレンタインチョコってバレるし。それはそれで恥ずかしいな。
「お! いいこと思いついた」
「いいこと? 飼い主、いいことって何?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話」
「そう?」
ここは思い切って、チョコケーキとかガトーショコラ? チョコは種類が多くて悩むな。
いや、思い切って聞いてみよう。うんそれがいい、何を恥ずかしがってるんだ俺。家族にチョコをあげるのは、何もおかしい事じゃない! そうだよな。
「椛、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「チョコって、何食べたい? ほら、どんなチョコが良いとか」
「え!!??」
急に大きた声を出して、俺までビックリした。そんなに驚かなくてもいいだろ。
「それで、どんなチョコがいい?」
「飼い主、それって、もしかして」
「うん、もしかしなくてもバレンタインチョコ」
なんだ、意外と察しがいいんだな。
いや、さっきまでバレンタインの話をしてたのにこんな話したら、そりゃ気づくか。むしろ気づかなかったら、少し引くよ俺。
「なんで私に聞くの。本当バカ」
「いや、だって。椛の好みのチョコ考えてもわかんなかったし」
「うるさい、知らない。バカ」
そこまで言わなくてもいいじゃん。
てか教えてくれないんだけど、どうすればいいのこれ。
「そ、れ、で! どんなのがいいの」
「••••••チーズ」
「あー、チーズ。え、チーズ? それは、チーズ食いたいって事? それとも、チーズ型のチョコ? なんだチーズ型のチョコって」
「両方」
「んー、分かった。両方用意しよう」
バレンタインにチョコとチーズを渡す人間とか、絶対人類初だろ。少し誇らしい。
「少しだけ、期待しとく」
「え? あ、うん! 期待しててくれ」
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飼い主もチョコあげる気だったんだ。びっくりしたけど嬉しい。私も満足して貰えるチョコ作らないと。
「飼い主、期待してて」
「お、おう。分かった。期待しとく」
飼い主、なんの事かわかってないような顔。話の流れ的に察して欲しい。本当に飼い主は。
「飼い主、明日買い物行くよ。朝から」
「え! 朝から!? そんなに早起きできるかな」
「ほら、早起きするために今日はもう寝て」
「まだ21時半だよ。もう寝るの?」
「5時には起きてね」
早起きして買い物して、早く作りたい。私もそろそろ寝よ。
「まあ、そこまで言うなら」
「じゃあ、おやすみ。明日楽しみだね」
「そうだね。おやすみ」