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山伏式神はあの獣の足──ゲテモノのせいではないかと思ったが、さして自分の顔面を気にした事もないため、首を傾げるだけだった。
「ルシャ様は越久夜町に、自らの半身がいるとお話してくださいました。近年、越久夜町は…土砂災害により壊滅してしまったとお聞きします」
「あら、そうだったの。知らなかった…そう、私は知らずに異界を過ごしていたのね」
「きっと、山伏式神様が日仏村にきたという事は…何か意味があると思います」
越久夜町から人や魔がこなくなったのは災害が起きたから。
知らずに、山伏式神はずっと待っていた。
──童子式神。巫女式神。
彼らは。
「薄々気づいていたのよ。もう町がなくなったのは。この村は、存在しているの?」
「ええ。わたくしやルシャ様がいる限り、村は続いていきます」
「羨ましいわ」
食事を終え、温泉はないが、部屋に戻った。
(新鮮な肉だったとはいえ、どこか、こう腐っていたような、変な味がしたわ)
生け捕りにしていたというのは、嘘ではないだろうが…。
(ルシャの力のせいかしら…)
あの作業員は異界に迷い込み、食われようとしていたのか。それとも逃げて見つかったのか。
分からないが、あのミイラ化した遺体に杭を打ったのもソイツなのだろうか。
(考えるだけ無駄よ…)
日が落ち、山伏式神は畳に寝そべった。「あ」
天井には血飛沫が幾重にも散りばめられ、ここで何かあったと物語っている。
「美味しい血が食べたいわぁ…」
瞼を閉じて、かつて口にした美味な血を思い返す。一度だけ食べた、質の良い血肉。
あれは──いつだったろうか。
つらつらと頭をめぐらせていると、『夢』を見る。
「──山伏式神。忘れていませんよね?あっしとの約束を」
「命をくれ」
「まだくれないのか?あっしはおめえを特別扱いしているのですよ」