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自分しかいないはずの部屋に気配がした。山伏式神は顔を上げ、睨みつける。
先程現れた世界が違う、あの少女がいた。彼女はこちらに深々とお辞儀をすると、壁に指を添える。
「え?何?」
水を付けたのか、壁に文字を書いていった。
「日仏村の人達に、騙されないで…?え、何?なんなの?」
『私の名前は、ムヅミ。遠い場所からやってきた』
ムヅミと名乗る子供はまた書き始める。
『この村はもう、人界には存在しない。異界の幻』
『村人たちも生きていない』
『私は村を助けようとして封じ込められてしまった』
ムヅミは辟邪の人ならざる者であり、留められた村を解放しようと遣わされた。そしてルシャたちに封じ込められてしまった。
それを伝えると、また深々と頭を下げた。
『お願いです。貴方に、私を解放して日仏村を救ってほしい』
「いやいや、待って!私はそんな」
しかし少女は悲しみを浮かべ、また懇願する。
「人ならざる者に、人は救えないわ。人間は信仰対象や使役魔となる人外にしか干渉を許さない。私みたいな余所者はこの土地では何もできないの。貴方だって無力だったじゃない」
人間に干渉できるのは生と死、信仰だけである。
ムヅミは首を振り、何かを書こうとした。
「山伏式神様。ご用意ができました」
リスが部屋を訪れ、ハッとすると少女の姿はなく、文字もない。
「まだ夜中ではないはずよ」
「諸事情により、鮮度に問題がありまして。申し訳ございません」
「あら…」
宴会場に案内され、山伏式神は息を飲んだ。
テーブルに作業着をきた人間が血まみれになり、横たわっている。
「生け捕りにしていたのですが、こちらの不手際で…」
「ご馳走じゃない!すごいわね!」