2の3
「山伏式神さんは日仏村でどうなさるつもり?」
「それが迷い込んでしまって」
「珍しい。人ならざる者が迷い込むなんていつぶりでしょう」
「帰りたいの」
切実に、頼み込んだ。越久夜町からどのくらい離れているかは知らないが、徒歩でもいい。
「貴方、どこから来たの?」
「越久夜町という場所よ」
「あら、聞いた事あるわ。ここから離れているけど、道は繋がっているはず」
「よ、良かった!」
「ルシャ様。彼女を休ませてから送り出すのはどうでしょうか?」
(ええっ?!)
「のんびりしていってちょうだい」
了承を得てしまい、山伏式神は何にも言えず楼閣から出されてしまった。
「山伏式神様には宿を用意しますので。あと、村民たちも顔合わせを」
「ええっ、そんな風に歓迎しなくても大丈夫だから!」
まるで旅行客じゃないか。
(あれ、でも私、そんな知識持ってないはず…)
違和感に首を傾げていると、彼はまた歩き出してしまった。
「お客様は久しぶりでして。わたくしたちも嬉しくて、ご挨拶なさい。日照」
「わ!」
いつの間にか佇んでいた血にまみれた巫女がペコリとお辞儀した。
「日照はこの地区を管理している眷属になります」
「よ、よろしく」
「不思議と山伏式神様は、ルシャ様に良く似ていますから。彼女、滅多に顔を出さないのですけどね」
自らとあの支配者が似ていると?
山伏式神は分からない事だらけだと、不安になりながら、宿に案内された。
また温泉郷に降りると料亭旅館のような、古めかしい建物に通される。リスによれば日仏村で初めて建てられた『観光客向けの施設』だと言う。見た感じ長らく使われていないらしく、廃墟化していた。
「山伏式神様は新鮮な食材がお好きなようですので、こちらで手を振るってご用意させていただきます」
「あ、ありがとう…」
廊下を通り、広めの部屋へ案内された。
「夜中になりましたらまた伺います」
リスが去り、山伏式神は部屋の隅で所在なく座っていた。
まだ使えそうな部屋ではあるが、かつての面影はない。ブラウン管テレビには埃が積もっていた。
「暇ねえ」
長く生きて初めて旅館に泊まったが、やはり休むための施設なのか、やる事がない。
テーブルの上に放置されたパンフレットが気になり、手に取ってみた。
『ようこそ、日仏村へ。自然豊かな山間部にある天然温泉、長寿温泉。鉄分豊富な源泉かけ流しで──』
「なるほど、やっぱどこかに温泉があるのね」
パンフレットよれば村はかつてたくさんの店や、客をもてなす工夫がされていたらしい。
昔から閉鎖的な越久夜町とは異なり、開かれ栄えた場だったようだ。
「温泉、少し入ってみたいわ…」