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「人身供養に出された修験者の娘。それがお前を最も形作る無念の形。まあ、人ならざる者なんて本来の形なんて無いも等しいけれどね」

 ルシャが見捨てられた姫の残滓のように、自らも誰かのこびりついた呪詛に似た何かだったと?

「私には、…山伏式神には関係ないわ。だって人間じゃないもの。そうでしょ?神さま」

「…羨ましいね」

 情けなく笑うと手を離した。そしてしゃがみこみ、視線を合わせてくる。

「あんたの友達より長生きしなよ」

(え?)

 脳裏に童子式神や巫女式神の顔が浮かび、何だか恥ずかしくなった。「と、友だち、とかじゃっ!」

「山の女神である私も手伝う。日間の頼みだ。日仏村を破壊する」

 瞼を開けると時が動き出したように思える。日照が手を止め、わなわなと震え出した。

「…日照?」

「ひ、ひ、ヒツ、サ…マ」

 干からび何百年と閉じられていた唇が僅かに動く。そうして自ら隠し持っていた手刀で自害してしまった。

「…ルシャ様。太陽が登り、村を照らしています」

 リスが恭しくも動揺しながら告げた。外から久しく耳にしていなかった野鳥の囀りが聞こえてくる。

「越久夜町に帰るわよ」

 山伏式神はありったけの力で空間を叩き割る。古びた床板の下にはあのガラスで隔てられた、不可思議な光景が広がっていた。たくさんのガラス張りの空間が現れる。

 ガラス張り、たくさんの四角い空間が連なり、静寂に包まれている。中身は空。

 箱の中、自分は閉じ込められている。

 真っ暗な中に僅かな光を放つ透明な壁。壊してしまえば何か変わるのだろう。

 村に充満していた古い空気が穴から雪崩落ち、加えて自らの力を放出する。黒い霧がブワリと舞い、お堂をあっという間に満たした。それは戸をすり抜け村へ漂っていく。

「何をした?」

 リスが怒りを込め、問うてきた。

「全て消すのよ。この地に起きた記憶も、人間も」

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